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★【会長連載】 Woodistのつぶやき(56)
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新シリーズの開始 「我が国林業の今と、あるべき姿」(1)
本欄「Woodistのつぶやき」シリーズが始まって今号で56回目、そして本欄の前身として「シリーズバイオマス」が連載30回、都合86回の中で「我が国林業七不思議(シリーズ連載9回)」や、単発的にも林業にまつわる事などについて所見を述べてきた。
あるいは業界紙、学協会誌などに寄稿したり、講演、講義など、機会あるごとに林業の問題点や改善策などを提起してもきた。
これらの主張の論拠は全く自学自習のものである。欧米、オーストラリア、ニュージーランドなど海外に出かけて、本業の木材加工や木材利用の視察に務めたが、同時に機会があればその国の林業の現場をもこの目で見てきた。またその国独自の林業手法の説明を聞き、その論理や本質の理解に努めてきた。
そもそも私は林業についてまとまった教育を受けたことはない。何の予見も予備知識もなく、ただ高校で習う程度の、化学、生物、物理などの知識を基礎として、素直に「自分の目で見て、自分の頭で考える」という姿勢できた。
我が国林業行政の問題点
「森林基本法」の戦後初めての改正のために、平成12年(2000年)「基本問題検討委員会」が行われた。不思議なご縁でこの委員会の末席に加わることになった。
この時私は重大な提案をした。というよりも私が林野庁の求めにより提出した政策提案レポートを、偶然に目にされた松下忠洋氏(当時農水政務次官)が、私の論旨を理解し賛同の上、中川昭一農水大臣ご了解のもと、私を委員として参加させるよう林野庁に強く指示されたものであった。6月から8月までの二ヶ月間に予定7回の会合(実際には8回)が開かれた。
熱弁を尽くしたものの残念ながら私の意見は、本質のところではほぼ採用にならなかった。ただ若い人たち(係長さん方)が、幹部の前では黙して語らずの体(てい)であったが、会場から役所へ帰る途中の路上では、私の意見について大いなる議論が沸き起こったものである。その興奮の議論は役所に帰り着いてからも続き、ピーナツやするめ、各地の銘酒がロッカーから引っ張り出されて、茶碗酒での応酬となったものだ。従ってこの二ヶ月は私にとって失意と共に、大変濃密で、意義深いものでもあった。
これらの点について、かつての議事録など紐解きながら、私から見れば方向違いの決定をされたと思う当時の我が国林業行政の来し方などについても論及してみようと思う。
今一つ林業問題について取り組んだことがあって、平成17年(2005年)に、「儲かる林業研究会」の設立を提唱したことである。鹿児島大学農学部で押し売り講義を申し入れ、お許しを得て先生方に趣旨を説明、幸いにも賛同を得た。農学部森林系の先生方、主に寺岡准教授(当時・現教授)、枚田(ひらた)准教授(当時・現教授)が事務局を引き受けてくださり、設立準備を始めた。研究会の名称の中の「儲かる林業」という言葉にいろいろ議論があったが、そのまま認められた。設立趣意書の文言にも、何かと意見があったものの、私の文案がおおむねそのまま承認された。
賛同される方が多く、入会者は予想を超える多数に及び、年間予算書を三度も修正したほどである。全国の林業関係者の間では評判を得たようである。研究会の熱心な活動や成果など目覚ましいものがあったにも関わらず中断せざるを得なかった反省も含め、紹介していきたい。
今年1月だったか、友人から問い合わせがあった。「知り合いが山の立木を売りたいと森林組合に見積もりして貰ったが、こんなに安いものだろうか」というのである。見積書のコピーを送って貰ったが、確かに安過ぎる気がする。ただ山の条件は様々で、これを自動で見積するシステムはまだない。今のところ実際に現場を踏むしかないのだが、これが6反(0.6ha)でいかんせん面積が狭い。
「もう少し山の場所が近いか、あるいは面積が広ければうちの担当に見積もりさせるのだけど」と応えるしかなかった。
山持ちにとって身近に親切で腕の良い、親しい素材生産業者がおれば実に幸いである。ただ実態は地域ごとに森林組合があって、ほぼそこしか相談する相手はいない。森林組合は零細も含めて山主たちを組合員としている。勿論組合としての仕事もしているだろうが、自身が素材生産業者でもある。ただその伎倆は様々であり、恐らく格差もあるだろう。そして多くの素材生産業者を「下請け」としても使っている。これらの点で、ドイツで見た森林組合とは機能も形態も全く異なる。
ただ多くの小規模の山持ちさんたちが、いろいろと大変困っているのは事実である。そして足元のところでは私にも打つ手はない。しかし理由はわかっているし、治療法も理屈としては立てられる。森林環境税という財源を持つ自治体の理解が得られれば、森林所有者の困りごとはかなりの程度解決できる。
この「Woodistのつぶやき」シリーズの中で、2回に1回くらいは新しいシリーズ「我が国林業の今と、あるべき姿」としてまとめていこうと思う。多分過去に言及したものと重複する所もあるだろうが、それを厭わず論考を進めていこうと思う。
(佐々木 幸久)