オーストラリア林業視察記(1)


戦略確立した独自の林業手法 

~国の特質を活かしきった政策~

このほどオーストラリアを訪問し、林業や木材加工の一端を見学してきた。

鹿児島県工業技術センターの森田主任研究院(屋久スギ抽出成分の研究で平成9年学位取得)が昨年10月より一年間の予定で、オーストラリアの研究機関CSIROに派遣されている。

同氏が滞在しているこの期間中に、是非同国の視察に行きたいとの想いが結実し、各方面の多くの協力を得て、7月15日から22日までの視察が実現した。

森田氏がいるとは言え、旅行社を通さないガイド無の、それぞれが自分のことは自分でしなければならない手作りツアーであった。参加予定者からは、川上から川下まで広範な視察希望があり、あまり遊び要素のない視察そのもののスケジュールとなった。

私費での研修旅行として自発的に参加された13名に、心から敬意を持っている。林業木材業の仕事の中で、それぞれ悩みや課題があり、何かを得たいと期待して参加し、そして確実にそれぞれ何かを得て帰国することが出来たものと思う。

視察日程は県工業技術センターとCSIRO森田氏とのメールのやりとりによって確定していった。この間、また視察中も、同研究所の矢崎義和先生に大変お世話になった。

県職員の長期派遣研修を契機に、自然発生的に視察の話が生まれ、特に割り当てに類するようなことがなかったにも関わらず、あるいはそれだったからこそ、真摯な方々の参加を得て、大変有意義な視察が実現したものと思う。

また、この試みに際して企画書の作成、参加の呼びかけ、旅行中の会計など面倒な役割も含め、終始事務局の役割を果たしてくれたのが、同じく私費参加の鹿児島県林業振興課橋口さんであった。

視察参加者、全13名の顔ぶれは次の通りである。

林業振興課2名、工業技術センター木材工業部1名、林業試験場1名、農林事務所森林土木課1名、農林事務所林務課1名、高知県森林局職員1名(民間研修派遣のため当社で研修中)、肝属木材組合5名、機械商社1名と多彩であった。

今回の視察は、メルボルン4泊、シドニー2泊。森田主任研究員が滞在していたCSIROはメルボルンにあったので、こちらについては詳細なスケジュールが事前に出来上がった。訪問したのは、ビクトリア州メルボルンのティムバー・プロモーション・カウンシル、CSIRO、展示林、木材会社、DIYの店、建材展示会などであった。

シドニーでは自由なスケジュールで、素晴らしい自然、その中にある様々なダイナミックな建築、土木施設の雄大さ、美しさに息をのみ、そして楽しんだ。彼の国の人たちの親切さ、人なつこさ、たくましさにも触れた旅だった。

ここまでの見聞と見解を紹介することとする。

”なぜ我が国林業では実現できていないことが、このオーストラリアでは出来ているのか”

この想いは強烈で、そのことが旅行中ずっとずっと胸中でこだましていた。オーストラリアで、林業を林業として成立せしめている手法、もしくはシステムを知りたい、あるいは仮説を組み立ててみたいという気持ちが強く、視察中につい物思いに耽ってしまうほどで、このレポートがいささか冷静を欠いていることは自覚している。恐らく正確さに難があるのも、そこから来るものである。

オーストラリアの林業のスタートはユーカリの原生林であり、おそらくは200年前の建国以来、その歴史の半分以上はただ資源の収奪のみというものであったに違いない。資源の先細り、そして何よりも州の大半の森林を焼き尽くした1938年の大火をきっかけに真剣な、Sustainable(持続可能)な林業の確立が希求され、我々から見たとき驚くような完成度の高い戦略を確立し得たのである。


 

実を結ぶ国主導の林業政策

~同時進行する国際競争力と育林~

戦略確立のためのアプローチの手法は、あくまで科学的であり、ということはすなわち万国万人に学問(林学)として与えられている普遍の手法によってである。しかしそれを突き詰めた結果、得た答えは同国の特質を生かし切った、他のどことも違うオーストラリア独自の林業手法が確立されたものである。

面白いのは、オーストラリアが100%公営であるのに対し、同イギリス系の文化である隣国ニュージーランドは、林業の戦略の到達点として完全民営化を選択したということだ。

要は、国際的な競争力のある林業の確立が出来ればよいということが理解できる。

まずはとりあえず、視察中に得た見聞を順不同で列記してみたい。

  1. 林業の対象ならびに保護林などの森林は、ほぼ100%が州有林(ヴィクトリア州)である
  2. 製材生産量の規模は、あの大きな国の州としてはそう大きくなく、年間40万m3
  3. 木材業は政府によるライセンスによる。ライセンスを持つ木材業者は約300社
  4. 政府が立木をロイヤリティー(売却価格)を取ってライセンスのある木材業者に配分する。どのような基準で各社毎の配分量を決めているのかは分からないが、上位10社で配分量の70%を占めているという
  5. ロイヤリティーは原木の品質に応じて価格が設定されているが、おおむね17~70オーストラリアドル(以下A$=約85円)
  6. 政府はそのロイヤリティーの中から森林の育林・管理のみならず林道の整備および保護林の管理までをも行っている。その費用はこのロイヤリティーの中で十分にまかなえているという
  7. ロイヤリティーは政府によるものであるから、産業振興の政策をも含んでおり、景気動向などにより30%程度の上下がある模様(今の日本の景気ならば、規定の価格の下限値が適用されている所)
  8. 木材業者は政府からの買い上げ量に応じ、原木1m3あたり1.75A$の拠出をして、政府の肝いりで設立されたティンバープロモーションカウンシルを維持運営している。負担金は当社の規模(年間原木消費量2万m3)で言えば、年間300万円くらいか。高いとも言える。しかし原木が安いこと、そしてこの組織の活動が、見たところかなり活発であろうことを考えると、十分ペイするとも言える
  9. 製材工場の時間当たり生産性は高い。ざっと見て日本の3倍か。猛烈な働きぶりだ。昼食の時、そのことを隣席の先方の会社の人に言うと、「まだ十分でない」と答えた。
  10. (「官業」であるにも関わらず)林業の育林コストが安い。すなわちユーカリに最適の低コスト育林手法を編み出したこと、政府がコスト低減のための努力をした(している)ということだ。
  11. 政府は国際的競争力保持と、持続可能な森林の維持のための明確なStrategy(戦略)を持っているし、実行している(と見受けた)
  12. 政府は林業林産業のための有効な政策を、森林資源を一元管理することで、優位な立場で林業政策を実施できる裏付けを持っている
  13. 前記Strategyに基づき、林業研究の方針は明確であり、効率よく着々とおこなわれている
  14. さらに競争力の確立のため地域別(国内を気候生育条件で数か所に分ける)に植える最適の品種の選定作業を精力的に進めている。600種とも700種ともいわれるユーカリの中から地域ごとに2種類ずつの推奨品種の選定が出来ている。選定の基準は林学で共通的に言われている。G(成長)、F(樹形)、材質とであるようである
  15. 研究所の研究環境は、実にのびのびと研究に専念できているらしい。施設、仕組みともに効果の上がる形になっている。大学を含めた我が国研究機関の雑用の多さは有名だ。

(次号につづく)