1999年(平成11年)8月発行「林構情報」No.108より
■はじめに
国産材の現在の状況は今一体どういう状況であるのだろうか。
国産材林業は盛況なのか不振なのか、もし不振ならば、なぜ不振であるのか。国産材製材は盛況なのか不振なのか、もし不振ならば、なぜ不振であるのか。そして木造建築は盛況なのか不振なのか、もし不振ならば、なぜ不振であるのか。
林業行政に関わっている人たちには、その原因を端的にしかし正確に、説明できて欲しいと私は考える。この答えが簡明で、正鵠を得ているならば、林業行政は大変スムーズに、効果的に推進できるであろうと思う。その原因の解明が必ずしも明快、正確でない為に、様々な打つ手が十分な効果を発揮し得ず、国産材が混迷を続けている原因であろうかと思う。
■海外の林業情勢
私はこれまでいくつかの林業先進国と言われる国々に、主として木材産業の視察を主目的として行ってきた。そしてそれらの国々で、林業はいわば明らかに「戦う林業」であり、国外にでも打って出る、激しい経営のための手立てを講じているように感じた。
たとえば我が国でも今、輸出をになっている産業では厳しい経営環境の中、他の国に負けないように真剣に努力をしている。あたかもそのように、林業や木材産業がその種の努力をしていると感じた。
沢山のクリアすべき課題がこれまでもあったし、これからもあることと思う。それらを解決しつつ、たとえば我が国の林業がついに自給率20%以下となるまでに、売り込みに成功したわけである。私自身は林業としては大した規模の事業はしていないが、国産材の加工業に身を置くものとして、国産材がここまで輸入材に追い込まれたことは、誠に残念な気がする。まことに木材産業の真の発展は、健全で力強い林業の発展がない限り、あり得ないと考えるものである。
視察当時、木材輸出国の林業の強みの原因を次の四項目にまとめたことがある。
これらの差は圧倒的なものがあるが、だからといって、林業や国産材に携わる人たちが、最初から何かあきらめている感じがあるのはおかしいと思う。もちろん我が国林業にも打開の道があると信じている。産官学で真剣に取り組めば、という条件付きではあるが。
■林業・木材業の現状
まず国産材と輸入材との関係を見るため、手っ取り早くそれぞれの価格比較をしてみた。ごく最近輸入した、当社で使用するベイマツ集成材原板について、1ドル121円の時、諸経費・運賃込みで約45,000円(KD・S4S)であった。同じ時期、スギ集成材原板のコスト(※)が約8万円(KD・S4S)ついた。
我が国でも木材価格は大きな変動があるように、勿論海外でも変動がある。ごく最近ベイマツの価格が少し上がっていると聞いた。為替の相場もよく変動する。木材相場、為替の相場は、容易に私たちが分析や予測できるものではない。いくらでも考えることが出来るのはコストの部分である。
※計算【製材生材5万円、乾燥・プレーナー加工料1万円、歩留り75%】による
川上の現況
国産材の川上の現在の状況をおさらいしてみる。
川下の現況
一方、国産材の川下の現在の状況はどうなっているであろうか。
素材生産の現況
こういう中で、原木の生産現場の状況は、
一定量以上の原木を競争力のある価格で、持続的に計画的に供給できるグループを育成する必要がある。
■価格ギャップの解消
これは九州のとある林業地区での林業の方々との話である。1m3当たり、やや不満ながらも当面2万円は欲しいところである。その線ならばぎりぎり持続可能な林業を維持することができる、ということであった。ところが現実には1万数千円台である現実に、不安と不満を禁じ得ない状況である。
一方、国産製材は、この原木価格低迷の事態に満足できているかといえば、決してそうではない。依然として輸入製材に押されて、低迷を続けているのが実態である。国産材が国際競争力を持てるための原木価格は、1m3当たり仮定ではあるが、13,000円という計算ができる。
両者のギャップは7,000円であり、このギャップこそが、国産材低迷の根幹である。これを埋めることが出来て、かつそれぞれが新しい価格体系に比較的満足できる状況に至れば、国産材は再生する。
それにむけて、林業・木材産業の構造改善を行う必要があると考えている。現在の林業の精緻なシステムは、木材が高く、人件費が安く人手の余った時代の物であり、一方今は、木材が安く、人件費が高く、人手不足の時代である。これを同じ育林の考え方、すなわち同じ林業システムでやっていこうということがそもそも誤りである。林業がだめなのではない。林業のシステムが時代に合わないのであって、そのシステムを時代にあったものに変革していくことが、林業の役割であり、林業研究者の使命だと考えている。
■林業構造改善について
新しい事業をおこす
林業や木材産業が、時代の転換期にあることは事実である。従って条件が整うならば、新しい事業をおこしたり、新しい工場を作るタイミングにあることは間違いない。
通常一般的に、事業経営の基本として、次の4つの要件「経営資源」が必要とされている。新しい事業をおこそうとするときに、これらの条件がどの程度整っているかを十分に確認する必要があるだろう。補助金が取れそうだからという、ただそのことでスタートすることは、もちろん失敗の元である。補助事業を導入もしくは審査する人の立場は、なかなか重要である。それぞれの事業体の条件をなるべく客観的に冷静に分析し、ある程度の条件を整ったと判断されたときに、ゴーサインを出すことが肝要かと思われる。中でもヒトにからむ諸要件が最も重要かと思う。
四つの経営資源
経営資源を、経営環境=時代の要請に応じて次の三分野に、適切に配分する必要がある。
経営活動の三つの分野
これまでの林業構造改革事業の功罪
これまで国産材の製材など、一次加工の大半が零細であった。その規模拡大が急速に進んだ。なかなかアクションを起こさない一般民間企業へ鉄槌が下った、と表現してもいいほどである。
素材のみを扱っていた森林組合に、木材加工への道筋をつけた。すなわち、加工のニーズをふまえた林業が出来る可能性が出て来たといえる。これは大事なことで、加工で本当に必要な条件を満たす木材を作る、ということは本来事業に不可欠なことである。ところがそれが何故かなおざりにされていたという気へがする。
ただ惜しむらくは、これらの動きの中で、販売、商品開発を忘れた「生産のみ」、という片輪の事業体が結構あった。補助事業であるが故の、そろばん勘定の欠如も散見されたようである。その結果、課題設備と販路を欠くままの、生産工場のみの見切り発車の事例があり、供給過剰、その結果のコストダウンを大幅に上回る価格低下、もしくは価格硬壊が見られる。あんなに安売りしなくてもよいのにと、ため息をつくほどの事例も見たことがある。
結果的に民間企業の結営を、刺激するならともかく、圧迫しているケースを見聞きする。
林業構造改革事業の役割
健全で力強い林業があって、木材産業の発展があると考えている。低コスト林業の確立こそ林業再生の道であると考えている。低コストになってはじめて、林業の利回りも向上する。
同時に林業のコストダウンが出来れば、輸入材と競争力が増し、全体的な需要は減少する中にあっても、自給率の向上、結果的に国産材の利用が拡大する。
そして国産材利用の量の拡大が、再造林を呼ぶことになる。戦後のある時期強力な「拡大造林」が行われた結果、膨大な森林資源が蓄積された。一方、結果的にであるが、森林の齢級構成は一種異常なものになってしまっている。 この資源を長期にわたって計画的に伐採し、再造林していくことによって、法正林化を進める必要がある。国家百年の大計として、真のサスティナブルな林業システムを確立することが、これからの林業構造改善の真の目的と考えている。
■新しい「業態」の創造
木材産業の新しい業態の確立
村蔦由直教授「現代アメリカの木材産業----資源大国の戦略」によると、アメリカにおける製材の需要は次の通りである。
このデータは大変大きな示唆に富んでいる。我が国の需要構造とかなり異なっているからである。住宅(それも主として構造用)というこれまで我が国での木材需要の大半を担っていた分野が、長期的な需要縮小、そして他商品との激烈な競争。これまでとは違う分野での需要開発も併せて行わなければ、マーケットは縮小する。個別の事業家が、ニーズを模索しつつ新たな需要を積み上げていくことが必要である。
林業・木材業を取り巻く新しい動き
建築基準法の改正(住宅の品質確保に関する法律)、林業基本法の改正
住宅の建築戸数の長期的低落
ヴィジョンについて
自分の事業の将来を考え、一歩踏み出すときに、「ヴィジョン」造りは欠かせないと思っている。私のいう「ヴィジョン」の意味は次の通りである。
併せて、ヴィジョンに基づいて事業や、工場を立ち上げるとき、その事業の「コンセプト」を明快にすることが重要であるということも、骨身にしみて感じている。
そのポイントは、自分の強みは何か。その強みをどこにぶつけるか。そしてそこでどうやって主役としての責任を果たすかというようなことであろうと思う。
■木材産業経営者の心がけ・・・自戒を込めて
最後に、自分で未だとても出来ていないことであるが、何とか考えようとしていることを自戒の意味を込めて披露し、本稿の締めとしたい。
(代表取締役 佐々木幸久)