建材試験センター「建材試験情報」2013年10月号掲載
●我が国におけるCLTのこれから
CLT については、国内での呼称が正式に「直交集成板」と決まり、この材料のJAS が近々にも制定されようとしています。一応これをもって「指定建築材料」になり、建築現場に構造材料として登場する資格はできたことになります。
しかし欧米などでその工期の早さとさまざまなめざましい特性やメリットから、木造中高層建物の急速な普及に貢献した「CLT 構法」は、我が国の制度上現段階では使えません。国内でこの構法で建築するためには、新しい技術基準が必要であり、当面は現在普及している軸組構造の中で、床や壁などの面材料として使っていく以外ないようです。
技術基準制定のための膨大な試験がこれから行われた上で、平成28 年度をめどに基準ができる予定であると聞きました。ヨーロッパで20世紀末に構造用CLT が実用化されて既に十数年、その間に技術面、ノウハウ面で長足の進歩を遂げました。ごく最近もストラエンソの巨大な工場ができたそうですが今や一つの産業ジャンルを形成するほどに発展を遂げています。
一方でこれからデータ収集と法整備のためにさらに4年間を費やすことに、彼我の格差が益々広がるだろうなと気が気でない思いです。
●もう一つの新しい技術
現在山佐木材ではもう一つ、何とか実用化したいと考えている魅力的な技術があります。鹿児島大学の塩屋晋一教授が開発し、この数年磨き上げている構法で、先生自ら「ウッドストロング構法SAMURAI」と命名しています。
塩屋先生は元来鉄筋コンクリート構造の専門ですが、ふとしたことからコンクリートの役割を木で置き換えればどうなるかとの着想から、異形鉄筋を組み込んだ集成材を作ってその性能を調べ始めました。非常に優秀な性能を発揮することから、この数年の間、柱、梁の材料としての性能、接合部の性能などの試験が精力的に行われてきました。
その結果「ひょっとするとこの材料の性能は、鉄筋コンクリートを超えるのではないか」という確信に近いものを感じておられます。私達もまたこれまでの成果に全幅の信頼を置き、山佐木材の計画している建物にこの技術を応用したいものと思い、現在先生に設計をお願いしているところです。
この構法についても、広く実用化するにはこれからいくつかのハードルを越えなければならないでしょう。しかしながら地方の大学で地道に開発された優れた研究成果を、何とか世に出せるよう努めるのも地元企業の役割だと思います。
●「超高層ビルに木材を使用する研究会」
2013 年10 月11 日に、「超高層ビルに木材を使用する研究会」設立総会、記念講演会を行う運びとなりました。
木材加工技術協会の機関誌「木材工業」2011 年12 月号に、福岡大学工学部・稲田達夫教授の「建築分野における木材活用のシナリオ」と題する注目すべきレポートが掲載されました。
この中で「非住宅中大規模建築物(特にオフィス等)に木質材料を大量に使用」し、そのことにより「木材自給率40%を達成し、国土保全と地球環境の両面から課題を解決」しようと提案しています。これら中大規模建築物の柱梁を木造化することは、技術基準や設計・施工の体制などから実現には多大の時間を要するだろう。それよりも床や壁を木造化する方が課題の克服が容易であろうと述べています。そして柱梁はそのままでも、床壁を木造化できれば、従来に比べCO2 の排出量はほぼ半減すると試算しています。
昨年秋初対面の稲田先生にお話をうかがいました。民間企業で高層ビル、超高層ビル建設に従事、最近大学に移り、木材利用に多大な意義を見いだしていると聞き感銘を覚えました。
九州内の林産加工、木造建築の先生方にも呼びかけ、二度ほど勉強会をしたところ、「意外な盲点だ」という評価もあって、このほど研究会設立の運びとなりました。
●画期的な技術の実用化に道を開け
同じ建築でも分野が違えば情報の共有はほとんどないことに最近気付きました。先ほどの研究会の勉強会でも、木材、木質構造の最近の研究成果を異分野の鋼構造の先生はほとんどご存じありませんでしたし、逆もまた同様です。
研究成果を披瀝することで、それぞれ到達しているレベルの高さに互いにびっくりすることがありました。「何だ、そしたらできるじゃないか」という場面が生まれるのです。異分野の専門家達が出会い、人と情報の交流で斬新な価値が生まれると思います。
広くどこででも安全性と一定の品質が得られる技術の大衆化は絶対に必要です。そのためには行政によるしっかりした規制や監視が必要なことも言うまでもありません。しかしあらゆる分野でもそうであるように、建築の分野でもまた技術の革新や先端性は重要です。けれども特に我が国において安全性を重視する観点から、このような革新性を実用化することに極めて否定的で、ほとんど狷介ともいえる状況にあります。国費が投じられているものも含めて、多くの研究機関等での膨大な研究が,実用化の道を封じられて結果的に研究のための研究に終っている可能性があります。
異分野を含む優れた研究者、技術者、職人のコラボレーションから生まれる独創的な試みの具現化を許容する仕組みが欲しいと切望します。それは研究者たちのみならず産業の活性化にも大きく寄与するはずです。
鹿児島県西之表市せいざん病院にて2階床に利用。
CLTはJASがないために構造用集成材で代用した。
(代表取締役 佐々木幸久)