【新春対談】林経新聞 新年特別新聞

国産材時代における木材利用拡大への道(1)

「林経新聞」2020年(令和2年)1月2日(木)の記事を分割掲載しています


 本格的な国産材時代に向けて、具体的な木材需要の拡大策が足元の課題となっている一方、大型台風など相次ぐ自然災害によって地球温暖化への懸念がますます強まり、低炭素社会に貢献できる木材の役割に関心が集まっている。また林業・木材産業は、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に寄与するとされ、これまでにないほどの期待を受けている。

 木材利用法の一つとして実績を挙げている集成材や新しい部材であるCLTなどは特に期待される分野で、とりわけ「都市の木造・木質化」には欠かせない存在だろう。

 新年に当たり、本郷浩二・林野庁長官と佐々木幸久・日本集成材工業協同組合理事長に「国産材時代における木材利用拡大への道」をテーマに対談をお願いした。

(司会は本紙橋爪良和、文責編集部)


持続可能な林業・木材産業

― 最初に長官から、日本の森林・林業や木材利用の状況についてお話しいただき、そこから議論を始めたいと思います。

 

本郷 いつも話していることですが、われわれの先人が戦後、苦労を重ねて植林した木が成長して今、ようやく日本中で大きくなっています。需要に対して圧倒的に大きい量ですから、木材需要を拡大しなければ、使われないまま放置することになりかねません。全国の人工林の相当部分がお金に変わる需要を創り出していかなければならないわけです。

 持続性を第一義として資源を劣化させずに享受するわけで、採り過ぎないという点で伐採量には限界があります。持続するということが最も大切であることは言うまでもありません。

 SDGsについては、森林・林業、木材は森林・林業、木材は17の目標のうち14項目に該当するとしていますが、私は全部が該当すると思っています。持続性、SDGsを実現し、将来につなげるために森林経営をどうするかを考えなければなりません。今、まさにSDGsの視点がないと資金を回さないと金融機関も言っているわけですから、産業界に木材を多く使ってもらえる契機になればと思いますね。

 

佐々木 最初に長官が指摘された、木材の伐り過ぎということですが最近、鹿児島でも少し顕在化しています。私が住んでいる鹿児島県の大隅半島は特に過疎化が進んでいます。森林組合に聞くと7割の山が放置状態に近いと言います。大隅半島は国有林が3分の1以上ありますので、そちらは大丈夫ですが、民有林については大体3割程度の山で生産されています。近いうちに40~50万立方㍍程度の需要が、加工施設の新設や海外への輸出などによって出てくると思いますので、私の計算では12~13年で伐りやすい山はほぼ伐ってしまうのではないかと思っています。もちろん、これは過疎化が進むこの地区でのことです。森林環境税という良い制度もできましたし、法改正による新しい政策も打ち出され、流れは良い方向に向かっていると思います。

 山の木は成長して大きくなっていますから、伐採コストは下がっています。素材業者の参入が非常に増え所得も増えています。加工工場やバイオマス工場などへの出荷が伸び、働く人も若い人が増えています。先日も森林組合の関係者と径級による伐採コストの違いについて話したのですが、100立方㍍収穫するのに1000本集材するのと、30~40本あるいは100本集材するのでは、伐採コストが全然違ってきます。そうなれば山元に返すお金も増やしていけます。

 一方で輸入材との競争では製品でも大変厳しい状況です。製品1立方㍍を製造するには4立方㍍の丸太が必要とされますので、加工業者に丸太価格を1000円下げて渡すことができれば、製品で4000円の競争力が増す計算になり、輸入材との競争力が出てくると思います。

 

見放された森林をどう生かしていくか

本郷 佐々木さんがお話しされた、伐採における持続性の観点はとても大切ですね。昭和30~40年代の日本では戦中・戦後の伐採圧で山に木がなくなりました。天然林をむやみに伐れなくなったのです。極端に言えば伐る木がなくなってしまったという状況ですね。持続性が断絶し、いわゆる「収穫の保続」ができなくなったわけです。今後はそれができるよう経済や社会条件すべてを合わせ、持続的に林業を続けていくことが、ここまで資源を大きくしてもらった先人に報いることだと思います。

 佐々木さんの抱く懸念はそのとおりで、大隅半島に限らず起きていることでしょう。伐りやすいところを伐ったままにして再造林しない例は多くみられます。所有者不明の山をどうするかという問題もあります。日本には素晴らしい山がありますが、間伐や枝打ちなどの手入れが長い間されていない山も非常に多いのが現実です。曲がり、死節といった欠点材の一部は集成材などで利用されていますが、ボリュームゾーンであるこうした山や木をどう利用して林業を回していくか、また公益的機能を発揮させていくか、これらがわれわれの政策課題の中心だと思っています。

 林業家の方に「一生懸命、良い山に育ててきたのに、国が二束三文にした」と叱られることがありますが、それに対しては「良い木を育ててこられたのだから、ご自分でマーケティングして積極的にやってください」と話しています。ただ待っているだけでは需要は戻ってきません。それをせずに国が悪いといわれるのは、少し違うのではないでしょうか。もちろん私たちも木材利用拡大の施策を続けますが、一方でボリュームゾーンである手入れをしてこなかった「見放された森林」をどう生かしていくか、あるいは公益的機能をどう発揮させていくのかという課題は大変大きいと思っています。

 

佐々木 私は集成材事業を始めて30年になります。構造材ですので、特に強度について深くかかわってきました。スタートしたころはスギの強度が低かったですね。理由は樹齢が若かったためですが、ヤング係数の不足でJAS規格からはねられる材が15%くらいありましたが、今は50年生程度の木を使うので、強度による「ハネ材」がなくなりました。木が成熟してきたということですね。

 私は最初からスギを目標にしており、スギ集成材のJAS認定第1号も当社でした。そこで、30~70年生のスギ丸太の強度を調べてみたら、放物線を描いて年数に応じて上がります。85年生までしか検査していませんが、100年生まで強度は上がっていくことが予測されます。すべてを40~50年生くらいで伐って使うというだけでなく、もっと長伐期で利用すれば、より強度が得られるので、100年生の山も残していくことは必要です。

 ドイツでは150年を基本にして、すべて120年で皆伐です。日本もこれだけ資源量が増えてきたのですから2つくらいの目標を立てて、一方で80~100年生の山も保存していけば、強度が足りないということにはならないと思います。

 もう一つ。長官がおっしゃるように足元の状況をみて積極的にできることをするという点では、鹿児島大学で研究されている「鉄筋集成材構法」の完成が近くなっています。鉄筋で木材を補強する構法ですね。スギのヤング係数が低いのは周知のことですが、それを300から最大400ほどまで引き上げられます。ヤングが低いからだめというのではなく、異質な材料を組み合わせて新しい構造材をつくるのです。コンクリートと鉄を組み合わせた鉄筋コンクリートのように、スギと鉄筋を組み合わせた木質材料もできるわけです。いろいろな方法があると思っています。

 

本郷 それはいいですね。建築物の構造について「ハイブリッドはだめ、無垢や純木造でないといけない」という意見も多く見受けられますが、そうした技術開発によって新たな木材需要が創出されるわけですからね。


株式会社 林経新聞社

代表取締役 橋爪 良和

〒460-0005 名古屋市中区大井町6番26号