社内報「やまさ」 1975年(昭和50年)4月号 巻頭言
渡口さんが土木部長だって?金山さんが総務部長・・・・・・・。そんな噂が次々に伝わって、社内には驚きと不安が渦巻いた事と思います。それにも増して、去る1月8日の夜、だしぬけに新部長を発表して、最も吃驚したのは本人たちだったろうと思います。
それもそのはずです。土木一筋に二十年、生き抜いてきた金山君が再び一年生になって、財務、経理畑の理論をマスターしなければならない。渡口君は渡口君で、商業高校を卒業するときは、簿記、珠算ともに一級という輝かしい成績だった。それから十五年、経理、財務一筋にやって来て、そのお蔭で昭和41年11月には、経理を通じて企業発展に寄与したということで中小企業庁長官賞を授与され、山佐に渡口あり、と経理については内外に、その実力は高く評価されているのです。それが全く方向違いの、土木の部長に就任するのですから、全く晴天の霹靂とはこのことで、皆さんの驚きは当然のことだと思います。
渡口君が木材加工部長、幸久君が建築部長、今度新しく営業部が発足して、その初代部長として木佐貫君が就任したのです。
さて社長は、何故このような突拍子もないことをやったのか、これを十分御理解いただけるのは、相当の期間が必要だし、否その効果が現実に示されねば、中々納得出来ないと思いますが、一応表面的な説明だけをしておきたいと思います。それ以上は社長を信頼して、新部長を育て、協力して、応援を願いたいと思う次第です。
そこで第一に、私達山佐グループは「郷土が誇る企業」にするために十の誓いを立てて五ヶ年計画をつくったのが昭和46年10月、本年がいよいよ最終の年度であります。更に第二次計画を策定する年度であります。次々に大きな目標を達成しようとする私達は、私をはじめ皆な凡人の揃いです。凡人にも大事業は出来ないということはないと信じます。世に言う「三人よれば文殊の知恵」、衆知を集める、話し合って「なんとかならんか!!」と真剣に話し合って知恵を絞る雰囲気、それを育てる、担任部長の交替によって、相互に指導したりされたりして、横の連絡が密になると思います。
第二に、縦の関係で考えられることは、永い期間同じ部門に居ると、何もかも自分で片っ端からずんずん片付けてしまって、なかじっか新人、素人にやらして、へまでもやらかしたり、うろちょろされると面倒くさいし、ついつい自分でやってしまうので、部下の者もつい手出しが出来ず、眺めている方が無難ということになります。さて今度は違います。部長は部長でも全くの素人、直属の課長は大いばりで指導し、手伝いが出来て自信満々。下手をすると自分の上司が、ヘマをやらかしたら大変だから油断がならない。部長も自分の部下を大事にして協力をもらわんと、部門の成績でも落ちたら我が身の破滅。短期間に猛勉強もせねばならない。課長が先生になって上司を特訓。このような人間関係から大きな成果が期待できると信じます。謙虚に、真面目に、真剣に取り組む姿こそ、部下の信頼と人望を得、人心を掴むきっかけになるのです。
第三に来社なさった客に対して、丁度担当者が留守であった場合など、その用向きを充分聞き、緊急の場合は臨機応変の処置が可能であり、あるいは対策についても的確で、満足いただける度合いが高いと思います。用件で訪れた訪問先の担当が不在とかで、たらい回しにされ、最後には駄目だと言われたときの腹立たしさ。山佐ではそんなことはないとなると、きっと山佐の評価は高くなること請け合いだと思います。担当者も留守中に用件の人よりの伝言か、的確に伝えられることによって、業務が円滑に進められて、大助かりだと思います。
第四に、担当幹部も生身の体、何時なんどき病気その他の理由で出社できない場合もあり得るのです。当人がベテランであればある程、その打撃は大きい。発注者の不信を買い、下手をすると倒産のきっかけをつくるおそれもある。企業は生きものであり、寸時も停滞は許されません。即時代行業務をさせることが可能でなければなりません。
更に企業も発展し、高度の知識や技術が要求される情勢になることは必須であります。その場合長期の研修、旅行に派遣し、或いは営業拡張により、新分野に進出することになると、幹部の出向を命ぜねばならないこともあります。近い将来には部門を分離して独立して、新会社を設立するつもりでおります。これ等のことを想定しますと、幹部養成は緊急の課題であります。立派に職務に完うした部長は、株主会の議を経て、重役に選任される途も開けるし、成績停滞の部長は降職せざるを得ないことになります。全く実力、業績次第です。
以上、担当の更迭理由を述べましたが、今回はほんのその一部で、まだまだ深い色々の理由があります。もともと課長と部長は、本質的に業務内容が異なりますので、おいおい部長研修を通じて、名と実とがともなう幹部となるよう、お互いに努力しましょう。
どこを切っても同じ血が流れ、どこを叩いても同じ音が出る姿。凡人であっても偉大なる仕事をなしとげるための条件。皆なで話し合って、皆なで考えて、皆なで頑張りましょう。この突拍子な社長の作戦が変更し、山佐の一大飛躍の足場になることを望みます。
(佐々木 亀蔵)