集成材事業スタート

―木構造時代への傾斜―

社内報「やまさ」 1991年(平成3年)3月号 巻頭言


 今年の二月初めに、構造用大断面集成材の専門工場である当社の下住工場に於いて、二番目の工場棟(一号棟)が完成しました。昨年12月に完成した一番目の工場棟(二号棟)が、通直材を使った設計であったのに対し、今回は、いわゆる湾曲集成材を使ったもので、この集成材を使った、木構造工法での、最もポピュラーなスタイルの一つです。この建築に携わった人達が、上棟の日には、ホレボレと見上げて、「疲れも吹き飛びます。」と言ってくれたのが印象的でした。

 既に、かなりの人達に見て戴きましたが、木材でこんな物もできるのかという、驚きを以て迎えられたようです。総じて、極めて好評であり、私達も今では、将来性について確かな手応えを感じている所です。特に、これまでの通念に反して、建築コストとして、鉄骨とほぼ同等、条件によってはそれ以下で建築可能であるという事で、意外であり、好感を以て受けとめて戴いているように思います。

 従業員に少しでも良い環境で働いてもらいたい、と考えておられる経営者の方々から、既に数件御引合いがあります。又、九州各県、各市町村に手分けして、逐次まわっておりますが、関心の深さに驚きます。既に、教育、福祉関係、或いは、林業、農業関係その他の施設に、具体的に計画の折込みをしてくださる所も出てきました。急速に、木造建築への理解が浸透しているように感じられてなりません。

 

 東京大学建築学科で、木造建築の御専門である大橋好光先生から、先日御手紙を頂戴しましたが、その中にも木造建築を取り巻く状況が変わってきていることを指摘しておられます。御許しを得ましたので、一部抜粋します。

「集成材建築を含めて、木造建築をとりまく状況は、今非常な勢いで動いています。研究もそうですが、被行政関係も同じ様にまた、木造をすすめていく体勢ができつつあると思います。木構造が、少なくとも他の構造と横ならびで扱われる時代が来る、と思います。(略)」

 以上の様に、新たな木造時代の到来を予測しておられます。

 

 又、先般、広島からY工務店のY社長様他二名が来社され、熱心に見学してくださいました。Y工務店では、湾曲集成材を使用した、独特の建築(高級住宅)を開発、商品化をはかっておられます。これまでカナダからの輸入材で対処してきたけれども、できれば国内で調達したいと、わざわざ訪問戴いたのでした。

 私が心強く感じたことは、条件によっては、輸入集成材を国産集成材に切り替えたい、という強いニーズが、現に存在したことです。

 私共がこの事業を始めるに際し、一つの大きな懸念が、外国からの輸入材に対し、特に価格面で、どう対抗するかという事で、この事については明快な解決策は無いままに、事業をスタートした経緯がありました。その後、日米両政府の協議に基づき、関税が引き下げられるなど、状況は益々厳しくなっています。

 そういう状況の下で、大断面集成材を使用した木構造による建築を、営業のメインとして、事業化をはかっておられる会社が出て来た訳です。そして、この会社では、いくつかの極めて首肯しうべき根拠から、輸入材をやめて、国内での調達に切り替えようと考えておられるのです。私共がクリアすべき課題が、まだ幾つもある事を承知しつつも、大変心強く、又自信を深めつつある事も御理解いただける事と思います。

 Y社長様から後日戴いた御手紙の一節です。

 「これからは、土地の有効利用を大前提に、三階建ての建て替え需要を、営業目標も第一義として参りたく、考えております。或る日突然、大断面集成材に、各建築業者が着目するものと考えております。(略)」

 この様に、社会の動きをじっと見据えて、そこにいち早くビジネスチャンスを見出した方がおられます。この様な方々と、相共に助け合って、ビジネスとして共に成功する事を願うものです。

 

 先程の大橋先生の御手紙にかえります。

 「(木構造が他の構造と横ならびになる事は)木造業者にとって、良いことばかりではなく、例えば精度や、納期、品質管理など、甘えが許されなくなる事もあるでしょう。(中略)いかに、品質管理や技術的なサポートをなし得るかが、問題になるでしょう。(以下略)」

 広島のY工務店様が求めておられるのも、ただ単に材料としての集成材だけでなく、構造計算、仕口加工、構造金物などのトータルな供給であろうと思います。この点、確かに大橋先生の言われる通りです。


 先日、城山観光ホテル様より、この構造用大断面集成材を使用したビアホールの工事を御下命戴きました。かなり大型のもので、出来上がれば鹿児島市民の話題となることは、まず間違いありません(※)。私共が事業をスタートしたばかりの段階で着目される、情報感度、建築のセンス、即座に実行される英断、又これには、地元で新しくスタートしようとする産業を、何とか一番に応援してやろうという、同社の保社長様の御配慮もあるものと、心から敬意と感謝を捧げる次第です。

 木造への傾斜という時代の動きが、私共の当初の見通しより、幾分早く動いているように感じます。

 林業を何とかしなければいけない、という熱い思いを持った方が多い事に驚きます。又、木材本来の良さを、何とか建物等の形で具現化したいと願っている方も多い事を知りました。これまでに、日本経済新聞、NHK、木材加工の専門誌「ウッドミック」、その他多数の取材を受けました。それを目にした方々から励ましやアイディアを戴きました。

 私共を取り巻く皆様方からの期待、社員諸君の情熱を思う時、失敗させてはならないという畏れに似た思いと、事業が進捗しつつある確かな手応えとの経営の妙味を感じている毎日です。

(佐々木 幸久)