メールマガジン第116号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第72話)

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72.地球温暖化の現状

 

 この所、気象予報士さんが言う所の「危険な暑さ」が続いている。この暑さの原因はCO2排出量の増大に基づく地球温暖化の影響ではないかとの指摘もある。私は、この地球温暖化の問題については、15年ほど前にかなり熱心に資料集め等を行い、日本建築学会に論文を投稿したりもしていたのであるが、ここに来て当時作成した資料等がかなり時代遅れになってしまっているのではないかということについて危惧を感じていた。それでこの際一念発起して、2000年から2010年当時に作成したデータや資料を、最新のデータに更新してみることにした。

 

図1)CO2の排出と吸収のメカニズム(1990年代想定 →2020年データ)
図1)CO2の排出と吸収のメカニズム(1990年代想定 →2020年データ)

(1)CO2排出量とCO2吸収量の関係

 化石燃料等を燃焼させてエネルギーを作り出すことの見返りに大量のCO2が排出されることになるが、一方地球は自己の持つ浄化機能として、海洋と森林がCO2を吸収してくれる。その排出量と吸収量を比較することにより、CO2の削減目標をどの程度に設定すれば良いかが決まる。その関係を表した図表を図1に示す。

 1990年代の統計データより導かれた全地球のCO2排出量は234億ton-CO2、一方森林・海洋等が吸収するCO2量は117億ton-CO2である。これらのデータより全地球で見た場合のCO2排出の削減目標は50%と設定される。これらの値を2020年の統計データに置き換えてみると、全地球のCO2排出量は314億ton-CO2、一方森林・海洋等が吸収するCO2量は165億ton-CO2となる。これらのデータより全地球で見た場合のCO2排出の削減目標は47.5%と計算されるが、つまり20年前に設定したCO2排出削減目標の50%は、現状でも概ね正しいことがみてとれると思う。

 

(2)CO2濃度の推移

 実際の地球温暖化の進行度合いを図る指標としてはCO2濃度を計測するのが一般的である。空気中のCO2濃度は、市販のCO2濃度計で比較的容易に計測することが可能である。

 今日までの全地球のCO2濃度の推移をみてみると、産業革命以前のCO2濃度は約280ppm程度と言われていた。それが20世紀になると急激に上昇し始め2005年には380ppmに達したと言われる。そのデータに基づいてそれ以降のCO2濃度の推移を推定したのが図2である。

図2)全地球のCO2濃度の推移推定(2005年の統計データによる)
図2)全地球のCO2濃度の推移推定(2005年の統計データによる)

 図2には①現状のままでCO2濃度が上昇し続けた場合、②2100年を目途にCO2排出50%削減を達成した場合、③2050年を目途にCO2排出50%削減を達成した場合の3つのカーブを推定した。

 当時IPCCの第4次報告書によれば、全地球のCO2濃度は450ppm以下に抑えるべきとの記述があったが、それに従えば、③のカーブを目指すべきということになる。

 試みに2005年から2020年までに得られた全地球のCO2濃度を図2にプロットしてみると、黄色い線が得られる。黄色の線はほぼ①の赤い線と一致しており、直近の20年を見る限りでは、CO2排出の削減効果はほとんど見られないということになる。これはかなり由々しい事態と言えるのではないかと思う。

 

(3)国別の国民一人当たりのCO2排出量

 ではなぜ、全地球で見た場合のCO2排出の削減効果が一向に見て取れない理由はなぜなのか考えてみるために、国別の国民一人当たりのCO2排出量のデータに着目することにする。表1は2002年の統計データに基づいて求めた結果である。

表1)国別一人当たりのCO2排出量比較(2002年統計データ)
表1)国別一人当たりのCO2排出量比較(2002年統計データ)

 具体的には国別のCO2総排出量を人口で割って、国別一人当たりCO2排出量を求める。同じく全地球のCO2総排出量を地球上の全人口で割って、全地球の一人当たりCO2排出量を求める。全地球の一人当たりCO2排出量の1/2が全人類の一人当たり目標CO2排出量ということになる。その値に各国の人口を掛け合わせることにより、国別の目標排出量が求まる。国別の目標排出量と、現状における国民一人当たりCO2排出量から、各国のCO2排出目標削減率を求める。

 表1から読み取れることとしては、米国のCO2排出量は突出しており、目標達成のためにはCO2排出量を90%以上削減する必要がある。一方総排出量第2位の中国は一人当たり排出量で見れば2.6ton-CO2と比較的小さいことが分かる。日本、ドイツ、英国等の西側先進諸国は一人当たり排出量は10ton-CO2程度であり、目標達成のためにはCO2排出量を80%以上削減することが必要であることが分かる。

 さて、2002年に求めた表1の値に対し現状(2021年の統計データ)どうなっているかを求めたのが表2である。総排出量1位は米国から中国に置き換わっており、一人当たり排出量も7.55ton-CO2と大幅に増大している。一方第2位の米国は一人当たり排出量は13.52ton-CO2と相変わらず多いが、2002年のデータに比べればかなり削減されていることが見てとれる。日本、ドイツ、英国等の西側先進諸国は一人当たり排出量は4~8ton-CO2程度とかなり削減効果が表れているのが見て取れる。

 一方、2002年当時は統計に表れてこなかった国々で、CO2排出量が大幅に増大している。例えばイラン、サウジアラビア、南アフリカ、オーストラリア、ポーランド等の国々では、一人当たりのCO2排出量が5ton-CO2を大幅に超えている。これらの国々の登場が、全地球のCO2排出量増大の一因になっていることは間違いなさそうである。

 

と言うわけで、地球温暖化の問題は、かなり深刻な状態に立ち至っているというのが、今回の見直し作業の結論ということになる。

表2)国別一人当たりのCO2排出量比較(2021年統計データ)
表2)国別一人当たりのCO2排出量比較(2021年統計データ)

(稲田 達夫)