M田のぶらり旅・「そば処にいな」百年を超えてつながり創り出される味

第29回 姶良市蒲生 「『そば処にいな』 百年を超えてつながり創り出される味」 

 新緑の山肌を眺めながら、蒲生の街へと向かう。姶良市の水田地帯では名産のはだか麦の収穫期を前に、黄金色の穂が豊かに波打つ、目にも眩しい風景が広がっている。ここは県内一のはだか麦の生産地なのだ。

 さて、5月16日気象庁から九州南部の梅雨入りが発表された。沖縄や奄美より先で、九州南部が最初になったのは統計史上初めてのことだという。平年より14日も早いそうだ。いつもの作業予定よりもずいぶん早い入梅に、湿気を嫌うはだか麦の収穫を控えた生産者の方々は気をもまれていることだろう。

 

 街の真ん中、南国交通「蒲生」バス停の目の前に、「そば処にいな」がある。2階建ての店構えの真ん中あたり、濃い紺色に染め抜かれた暖簾に屋号が白く浮き出し、店前にあしらわれた楓の緑に映えている。

 

 

 駐車場は店前とその右に10台分ほどあるが、お昼時は足りなくなることがある。

 暖簾をくぐって店に入ると左手に厨房、右に腰掛けテーブルが4つ、奥の上がりに5つ並んでいる。きつきつでもゆっくりでもなく、しっくりくる間合いが心地よい。テーブルについて店内を見回すと、ほかの蕎麦屋にはないものが二つ掲げてあった。一つは火ぼかした大鮎をいくつも刺した藁つとである。尺越えの鮎が獲れる川がまだあることに驚き、それを火ぼかす技と手間に感服した。

 

 

 もうひとつは、蒲生を紹介するために地元商工会が作成したポスターである。司馬遼太郎の似顔絵を中心に置いて、『街道をゆく』に記された蒲生のエピソードが周りに配置されている。彼がそば処にいなで特製そばを食べて、そのおいしさが気に入ってあとで奥さんも連れて来たことが載せられている。が、その似顔絵があまりにもデフォルメされていて、本人から離れて、ややもすると松本清張に近づいているような絵面が、私としては少なからず残念なのである。豊かな白髪に黒縁メガネはたしかにその通りなのだが!

 品書きをもらい、相方は司馬遼太郎がお気に入りだった特製そばを注文した。もちろん手打ちである。ただ、ここの「特製」は具がいろいろ乗っているのではなく、つゆに火ぼかした鮎の出汁を使っていることが特別なのだ。芳ばしくすっきりとした蕎麦つゆはほかの店では味わえないものだろう。食べれば、つゆを一滴も残さず飲み干してしまうことは言うまでもない。

 

 

 私はというと、この店を教えてくれた友人から勧められた隠れ人気のかつ丼を注文してみた。蒲生産のごはんに乗った豚カツは厚く一切れがちょうど一口大に切ってある。卵とすこし甘めのだしがからんで、そのものの旨さとひと手間がうれしい逸品だった。

 どちらにも、テーブルに置かれていた香り豊かな鳳山七味をかけて、キリッとひと味増したおいしさを堪能させてもらった。

 

 

 上品でやさしそうなおかみさんが忙しい中にもかかわらず、お話を聞かせてくれた。

 この店は創業100年を超えていて、今の店主、厨房で腕を振るっている息子さんまで綿々と、にいなの味を受け継がれているそうだ。先代(おかみさんの旦那さん)が早く亡くなったので、息子さんは予定より早く跡を継ぎ、お客様に自分なりに納得のいく味を提供したいとこだわりをもって厨房に立たれているという。おかみさん曰く「だから、お料理を出すのが少し遅くなったでしょ。ごめんなさいねー。」 詫びる言葉とは裏腹に、とてもほこらしげな笑顔で。

 あの尺鮎も、秋のおわりに自分で冷たい川に浸かって獲ったものを、何日もかけて炭火で火ぼかされるそうだ。特製そばの味わい深さはここに由来しているのだ。

 

 勘定を終えて、外に出ると空は重い雲に覆われていた。鬱陶しい季節のなか、「カモン ツ」で、他では味わえない手打ち蕎麦とかつ丼、しみじみご馳走様でした。また来ます。

*******************************

そば処にいな:鹿児島県姶良市蒲生町上久徳2546

       TEL:0995-52-0028

       定休日:木曜日   営業時間:11:30~15:30

       ※教えてくれた人:鳳山七味 製造販売 三十四商店 林三十四さん

        https://34shouten.base.shop/items/81807286

参考:姶良市公式HP南日本新聞

 

(M田)

コメントをお書きください

コメント: 4
  • #1

    けんぞう (木曜日, 05 6月 2025 20:42)

    見るからに美味そうなお蕎麦ですね。
    前から思っていたけど蕎麦屋の丼もの、特にカツ丼は美味しいですよね。
    ツユにこだわっている分ここのものは絶品だろうなぁ〜!空想してたらお腹が空いてきた。

  • #2

    しかまゆきこ (金曜日, 06 6月 2025 14:15)

    深い!鮎の出汁とな。「最後の晩餐」は蕎麦、と決めている私としては、是非とも、まずは一度、味見してみたい。
    蕎麦といえば、冷たいつゆにちょいとくぐらせてたぐる。天ぷらも何もいらない。
    ただ、鹿児島の蕎麦には祖母の味も重なって、ちょっと伸びかげんを温かいつゆで啜るのも、またよし。
    M田さん、鹿児島の地図に行きたいところの赤い丸がどんどん増えていきます。

  • #3

    しよ (金曜日, 06 6月 2025 16:59)

    司馬遼太郎が二度までも食した蕎麦とはどんなに旨いものか、是非食してみたい!
    カツ丼のお椀が蕎麦なのもいい!
    おかみさんの顔が想像出来て、その人柄にも触れてみたい。
    商工会のポスターも見てみたい^^
    (…たいづくしになってしまった笑)

  • #4

    (土曜日, 07 6月 2025 11:42)

    おいしそうな、かつ丼、以前そばを食したことがあり、美味しかった記憶があります。
    今度は、かつ丼食べてみたくなりました。いつも楽しいぶらり旅有難う。