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★【稲田顧問】タツオが行く!(第78話)
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「これまでのタツオが行く!」(リンク)
78.鉛直スチフナ工法
今期(令和6年度)も3月となり、この1年のとりまとめの時期を迎えている。今期私は、「鉛直スチフナ工法」の設計・施工法の開発に取り組んできた。
私が最初にこの工法に出会ったのは、1995年頃のことである。大手ゼネコンの知り合いの紹介で、アルテスという会社の伊藤昭栄さんという方が訪ねてこられ、この工法の説明を受けたのである。
この工法の特徴は、角形鋼管柱とH形鋼梁の接合を、直接溶接するのではなく、鉛直スチフナという台形の鋼板4枚で接合し、力を伝える工法である。具体的には梁フランジと鉛直スチフナの接合は隅肉溶接で行い、鉛直スチフナと柱の接合は突き合わせ溶接で行う。利点としては、柱を切断する必要が無い事、およびダイアフラムを入れる必要が無いので、各方向の梁セイを自由に設定できるということが上げられる。その他、溶接量が従来工法に比べ格段に少ないことも利点として上げらる。伊藤さんからそのような説明を受けた私の反応としては、「地震の際の載荷速度はかなり高速なので、そのような速度に鉛直スチフナの歪の進展がうまく追随できるのか少し心配だ」というようなことを申し上げた記憶がある。
次にこの工法に出会ったのは一昨年の「超高層ビルに木材を使用する研究会」の基調講演で、宇都宮大学の増田先生から若い頃このような工法に取り組んだことがあるとの話をうかがった時である。アルテスの伊藤さんから紹介のあった工法に、増田先生も関わっておられたということに少し驚いたのである。
さて、この基調講演を聞いておられたインフォメディアの山崎社長が、鉛直スチフナ工法に大いに興味を示されて、低層な小規模の建物で使えないものか問いかけがあった。溶接量も少なく鋼材の加工費用も抑えられそうで、最近の工事費の高騰を考えると建設コストの削減も見込まれ、合理的な工法ではないかとおっしゃるのである。山崎社長の言葉に突き動かされる形で、この工法の設計法を検討して見ることにしたのである。
鉛直スチフナ工法の検討を行う内に、逆に在来の工法の問題点が気になり始めた。現在鉄骨造の柱梁接合部で最もよく用いられる工法は、「通しダイア工法」と呼ばれる工法である。この工法は、2枚のダイアフラムと呼ばれる厚い板の間に梁セイに合うように切断された角形鋼管を挟んで溶接して直方体の箱のようなものを作成する。そしてその箱に対し、各方向から柱や梁を溶接接合するという工法である。その際の接合は全て完全溶込み溶接と呼ばれる工法で行われるが、溶接箇所には全て超音波探傷検査が義務付けられており、非常に手間のかかる工法となっている。
昔、大阪大学におられた溶接工学の大家である豊田先生という方とお話をする機会があって、その時先生から、「建築の構造設計者は少し溶接に頼り過ぎていないか。わざわざ最も応力が厳しい箇所で溶接を用いており、その結果溶接に過度の品質を要求することになっていないか」というご指摘を受けたことがあったが、今になって改めてこのご指摘の意味が少し分かって来たように思われたのである。
鉛直スチフナ工法で設計する場合の要点は、鉄骨梁の降伏が鉛直スチフナの内端部で生じるように設計することである。そうすれば、鉛直スチフナの接合部の応力の増大は抑制されることになるから、溶接法に過度の品質を要求する必要はなくなる。
今回の開発を進める中で最も悩んだのは鉛直スチフナと鋼管柱の溶接法をどうするかということだが、当初は完全溶込み溶接を想定していたが、応力の増大が生じないのであれば、品質管理の容易な部分溶込み溶接で良いのではないかと考えるようになった。
さらにそのように設計された鉄骨フレームに昨年度開発したCLTパネル制震壁を組み込めば、制震壁が鉄骨フレームを補強することにより、鉄骨フレームには一切降伏が生じないことになり、結果として安定した耐震性能を持つ建物を設計することができるというものである。
さて、ここまで検討を進めた所で、山崎さんと話をしている内に、実際のフレームを組んで実験ができないものかということになった。それで鹿児島県の助成事業に応募して、実大実験を行うことにしたのである。実験は鹿児島県の工業技術センターの中原さんにお願いし、山佐木材の技術開発のメンバーの全面的協力も得て、無事実験を終えることができた。
現在最終報告書をまとめている所であるが、世の中に多少ともインパクトのある報告ができればと、思っているところである。
(稲田 達夫)
