メールマガジン第123号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第79話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

79.実大実験等の思い出

 

  先月は、ここ1年取り組んで来た「鉛直スチフナ工法」について、実大実験等の経緯なども含めて紹介したが、これについては引き続き今年度の継続課題でもあり、後日談もいろいろあるので、これから機会があればまた報告できるのではないかと思っている。

 

 今月は昔行った実験の思い出話等について、少し書いておこう思う。福岡大学に在籍した7年間は、短期間ではあったが結構いろいろな実験を行う機会に恵まれた。その中でも特に思い出深いのは、「鉄骨梁の開口補強材の開発に関る繰り返し載荷実験」である。この実験については、前年に多くの単調載荷試験を行い、既にそれなりの成果を得ることができていた。しかし、実際の梁には地震力がかかるのであるから、やはり繰り返し載荷実験を行った方が良いだろうということで、敢えて挑戦することにしたのである。

 まず、前年の単調載荷実験結果の概要を紹介しておく。

 


 

 実験は、福岡大学の5000kN万能試験機を用いて行っている。上図左がその試験体図である。試験体は、1)無開口梁、2)開口無補強梁、3)開口補強梁(在来工法)、4)開口補強梁(今回開発のリング補強材)の4種類を実施している。結果を上図右に示す。2)開口無補強梁(WO40S2M)が大きく耐力低下をきたしているのに対し、1)無開口梁DR140S2Mと2体の開口補強梁「3)DR340S2M、4)DR240S2M」については、それぞれ同じような安定した性状を示しており、今回開発したリング補強材の有効性が確認できた。

 さて、これと同様の実験を繰り返し載荷で行ってみようというわけである。結論から言えば実験は無事終了し開発した補強リングの効果を確認することができた。その結果が下の図である。

 

 上左図は開口無補強の場合、上右図は今回開発したリング補強を用いた場合である。

 さて、実験は無事終了したのであるが、この実験が特に思い出深いのは、試験体の設計ミスにより、結構大きな失敗をしてしまったのである。ここではその失敗の経緯を紹介しておく。

 

 実験を計画するにあたり最初に書いたのが右の図1である。実験の意図としては、5000kN試験機はその機能上の制約から、上から押すのみであり上に引き上げることはできないので、別の2000kNジャッキで引き上げてやろうというのである。

 この試験方法だと試験体を押し引きする場合に、試験体の右側で試験体を支えている架台の支持点に浮き上がりが生じる恐れがあり、その反力をどう処理するかが、結構難しいのであるが、当時私はこのことについてはあまり深く考えていなかった。

 5000kN試験機の床には頑丈そうなレールが敷かれていたので、それで反力を取ればなんとかなるだろうと安易に考えていたのである。 

 その結果、実際に実験を行ったのが図2の試験体である。

 しかし、いざ実験を始めてみると2000kNジャッキで引き上げた所、5000kN試験機の足元のレールが、浮き上がって来たのである。これについては、実は実験を手伝ってくれていた、田中照久先生と倉富洋先生が、あらかじめ危険性を察知していて支持点そばのレールに変位計を設置してくれていたのである。

 もしそれが無ければ、歴史ある福岡大学の5000kN試験機を破壊してしまう所であった。

 気を取り直して、試験体の設計を大幅に変更し再挑戦したのが図4の試験体である。修正点としては、試験体を引き上げる2000kNジャッキの足元まで大型の鉄骨梁を回しこんで、自己完結型となる試験装置に設計変更したのである。

 

 実は一昨日の4月2日は今年度の日本建築学会大会の学術講演梗概の提出日である。多分今年も多くの論文の発表が行われるのであろうが、このような実験の失敗の経緯は報告されることはあまり無い。しかし各論文の背後には、多分いろいろなドラマがあるのだろうと思うと、少し楽しい気分になる。

 ちなみにこの実験を経て開発されたのが、コーリョー建販さんの鉄骨梁の開口補強材「ダイヤリング」である。コーリョー建販さんのRC梁の開口補強材の製造工場が、なぜか鹿児島県の山佐木材の下住工場の隣にあるのが、偶然とはいえ縁のようなものが感じられて、面白いのである。

 

(稲田 達夫)