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★【稲田顧問】タツオが行く!(第80話)
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「これまでのタツオが行く!」(リンク)
80.天井の実験
前回は、福岡大学時代に取り組んだ鉄骨梁の開口補強材の性能確認試験についての思い出話を書いた。今回は、2010年に福岡大学に赴任して最初に行った天井に纏わる構造実験の思い出について書いてみたいと思う。
かなり以前のことだが、東北地方で大きな地震があり、プールの天井が崩落し多くのけが人が出るという地震被害があった。天井の多くは吊り天井であるが、吊り材は軽量鉄骨で組まれるのが一般的である。天井板そのものはそんなに重い素材を用いることは稀であり、万一天井板が落下したとしても、それほど大きな被害は生じない。しかし、天井板が下地材を巻き込んで軽量鉄骨もろともに落下すると、軽量鉄骨はかなりの重量物であるから、大きな人的被害を生じることになる。このような天井の落下のメカニズムを解明するのがこの研究の主な目的であった。
通常の吊り天井は、振り子の集合体のようなものである。通常のビルの場合は、吊り元の床は平たんであり、そこから吊られた天井面もレベルが一定の場合が殆どである。この場合は、振り子の固有周期は全て一致することになるから、地震で揺れたとしても天井一体となって整然と揺れ続けるだけと考えられる。それが、天井面に段差があったり、吊元の床に傾斜があったりすると、それぞれの振り子の固有周期は一致しないことになるから、複雑な振動現象を引き起こす。実際のところ、段差のある天井に地震被害が多いことは経験的にも分かっていたことである。
もう一つ、天井板が下地材を伴って大規模な崩落を引き起こす要因として考えられるのが、天井の壁面への衝突である。衝突が起こると振動現象は乱されることになることから、天井の崩落の切っ掛けになる可能性は十分にある。
一方で落下を押さえる工夫も行われている。代表的なものがブレースの設置である。コストとの兼ね合いもあるので、如何に合理的にブレースを配置するかが、天井の設計の腕の見せ所ということになる。
吊り天井の構成を説明すると、右図のようなものである。上階の床から吊りボルトがぶら下がっておりその下端にハンガーと称する接合金物が取り付けられている。ハンガーには野縁受と呼ぶ軽量鉄骨の横架材が取り付けられており、その野縁受にはクリップと呼ばれる野縁受と野縁(野縁受と直交する横架材)を接続する接合金物が取り付けられる。最後に野縁に天井板をビス止めするのが天井の標準的なディテールということになる。
天井面に地震等により加速度が加わると、野縁や野縁受が周囲の壁面等に衝突し、その衝撃力によって野縁を支えるクリップやハンガーにずれや緩みが生じる。結果として、野縁や野縁受がバランスを失うと天井の大規模な崩落へと進展するのではないかというのがこの実験を行うに当たって想定した仮説であった。
さて、ここで問題になるのは、地震力を想定した外力をどのようにして与えるかということである。地震であるから振動を与えれば良いということにはなるが、ただ手で揺らしたのでは力の度合いを定量的に把握することは難しく、あまり懸命な方法とは思われない。地震時の揺れを想像すると、最初突然にかなり大きな加速度(衝撃力)がかかり、その後繰り返し荷重へと移行する。その最初の衝撃力をいかに定量的に計測できる形で与えるかというのがポイントとなるように思われる。
そのようなことを考慮して考案した加力方法が右図のようなものである。つまり、まず試験体の天井とほぼ同等の重量の重りを準備し、それを振り子の原理を用いて高く持ち上げ、試験体に衝突させることにより試験体に衝撃力を与えようというものである。落下点から試験体との衝突位置までの高さを計測しておけば、衝突時の加速度従ってその時生じる衝撃力も把握できるはずである。
結果としては一撃の衝撃力で下記の写真のような損傷が多数見られた。
1)多くのクリップにずれ、緩み、捻じれ等が生じたこと
2)ハンガーにも大きな緩みが随所に生じたこと
このような状況であったから、天井板が地震初期の衝撃力でハンガーやクリップなどの接合具に損傷が生じ、重量的バランスを欠いたことが見て取れる。このあと地震の揺れが継続すれば、大きな崩落に繋がる可能性が見てとれたのである。
尚、天井下地に適切にブレース等の振動を抑制する機構を設置すれば、上記のような損傷は軽減することも確認できた。
試験体の作成は、耐震天井で定評のある天井材メーカーの(株)オクジューさんにお願いした。学生が作成した簡単な試験体図に基づいて、オクジューさんの施工部隊の職人さんが、組み上げてくれたのである。
オクジューさんとは三菱地所時代から付き合いがあった。私は制震装置などを用いて、建物の地震被害の低減には努めてきたつもりであったが、たとえ建物が壊れないとしても天井が崩落すれば大きな人的被害が生じることは明らかである。天井の崩落については従来より特に気になっていたので、オクジューの岩下さんという部長さんにいつも相談に乗ってもらっていたのである。
当時は我国の建築における地震対策は、徐々に構造体の耐震性能は向上し、関心は構造材から非構造部材に生じる被害に移りつつあるときでもあった。それなりに時宜を得た研究であったのではないかと思っている。
(稲田 達夫)
