メールマガジン第126号>稲田顧問

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★【稲田顧問】タツオが行く!(第82話)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「これまでのタツオが行く!」(リンク

82.万博リングを残す方法

 

 

 大学時代の友人の山下誠一郎君から、「万博のリングは面白いと思わないか。できれば万博が終わっても取り壊さないで、そのまま使えたら良いと思うのだが、君はどう思うか」という電話を頂いた。「僕も全く同感だが、実際にはそれをどう実現するかということになるとハードルは高いような気がする。」と応えると、「君は木造との関わりは深いのだから、簡単にあきらめないで、もうちょっと考えてみてはどうか。」と言われてしまった。確かに私は、ここ十数年、木造建築に急激に接触する人生を歩んできた。

 

 木造建築を研究対象にしようと思い立ったのは、福岡大学に転職してからのことである。1950年代、戦後の復興事業で山の樹木が伐採され禿山と化した我国の国土を再生しようと、全国で大々的な植林事業が展開された。その時植林された樹木が60年を経過し成長して活用期を迎えつつあるのである。しかし福大に転職した当時の国産木材需要は低迷しており、新しい木材需要の模索が行われていたのである。

 福大に赴任して暫く立った頃、木材工業という専門誌に、「中大規模の事務所ビルの柱梁は鉄骨造のままで、床のみを木造にすれば、特に技術革新は不要で、かなり大きな木材需要が新たに生れる」という趣旨の論考を投稿した。その記事を読んで、山佐木材の佐々木幸久氏が研究室を訪ねて来られ、面白い考えだと思うので是非協力したいとのことであった。

 佐々木さんとはいろいろ話をし、意気投合することも多く結局「超高層ビルに木材を使用する研究会」を立ち上げたり、林野庁の助成事業を受託したりと、大いに助けて頂いた。おかげで、研究室の研究費も潤沢となり、耐火試験等費用のかかる本格的な実験等もできるようになった。

 後日、佐々木さんと話をした時、「稲田さんの研究室に伺った時、素晴らしい論文を書いた人が、びっくりするような粗末な実験をやっておられるというのに実は驚いた」という趣旨の話をされた。右の写真が、その「びっくりするような粗末な実験」の風景である。この実験は温度や湿度、天候等の変化が木材の構造性能にどのような影響を及ぼすかを解明しようとした実験で、結構大真面目な実験であった。多分、永年製材所の社長として、木質構造の技術開発を指揮して来られた佐々木さんから見れば、写真の実験はなにかガラクタを集めたようなものにしか見えなかったのかもしれない。

 

 さて、冒頭の話題に話を戻して、万博会場のリングを終了後も残して使い続けることができないかという問題であるが、大阪府などからは一部(200~300m程度)を残すという案は出ているようである。多分海の近くの眺望の良い部分を残し展望台にでもしてはということではないかと思う。しかしリングの良さは、一周2kmをぐるりと回れる所にあるように思う。一部残すのではやはり中途半端ではないだろうか。一方一周2kmもあるリング全体を残すとなると、現状仮設建築として建築基準法上の緩和を受けている建物を、建築基準法に準拠した恒久的な建築に変えるということになるから、ハードルは大変高くなる。例えば防耐火規定一つを取っても、基準法を満足するように建物全体を改修するとなると、何しろ建物が大きいので莫大な費用がかかってしまうことになる。

 リング全体を残す手立てとしては、残すに当たって現状から一切手を加えないというのが、良いように思うがそんな方法はあるのだろうか。一つは、唐突と思われるかもしれないが、重要文化財の指定を受けることである。それができれば重要文化財は建築基準法の適用を受けないから、かなりの障壁はなくなる。しかし、この考えはやはり山下君に「荒唐無稽」と一括されそうである。

 リングを残すことの良さを理論的に説明するのは難しい。やはり重要なのはリングを残すことについて自然に国民の支持が沸き上がることではないかと思う。リングを改修するのは巨大であるが故に改修費も馬鹿にならないと書いたが、同様にリングを解体するのにも巨大であるが故に莫大な解体費用がかかるはずである。さらには莫大な木材廃棄物も発生する。解体した木材は再利用するとの考えもあるようだが、解体した資材を再利用のために一時的に保管するストックヤードのこと等考えると、再利用と言うのはそれほど簡単なことではない。そうやって、どうしようかと悩んでいる内に月日が経ち、気が付いたらリングはあの地に定着してしまっていたというのが最も良い方策ではないか。

 願わくば、万博が終わってもリングの周りに柵をして「立ち入り禁止」にすることだけは勘弁して欲しいと思う。何しろ柵をするだけでも巨大であるが故に結構な費用がかかるはずだから。

 

(稲田 達夫)