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★【稲田顧問】タツオが行く!(第87話)
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「これまでのタツオが行く!」(リンク)
87.この秋に開催された3つのイベントの感想
10月から11月は、私が所属する2つの団体(建築鉄骨構造技術支援協会(略称:SASST)、超高層ビルに木材を使用する研究会が主催するイベントが集中する時期である。この時期に開催された3つのイベントについて、今年の特徴とその感想を記しておこうと思う。
(1)SASST国内研修(奈良)
今年はSASSTの理事を務める上柿さんの紹介で奈良県を訪れた。視察先は大和ハウス工業奈良工場と上柿さんが代表を務める上柿鉄工建設本社工場である。
国内研修の初日10月2日、最初に訪れたのは大和ハウスグループが経営する「みらい価値共創センター(コトクリエ)」である。コトクリエは大和ハウスグループの基本姿勢である「共創・共生」をテーマにした大規模な展示・研修施設である。コトクリエを訪問する中で特に印象に残ったのは、大和ハウス工業の社名の事である。つまり大和ハウスの「大和(だいわ)」とは本来は「大和(やまと)」のことであり、奈良県大和(やまと)が大和ハウスの発祥の地であることを知った。ちなみに現在「大和」を「だいわ」と読むのは「大いなる和をもって経営に当たる」という創業者の強い意思が込められているとのことであった。
次に訪れたのは、大和ハウス工業の奈良工場である。住宅用部材・部品を生産する第1、第2工場と、事業用建築の鉄骨部材を生産する第3工場より構成される。奈良工場は創業の地ということもあり、大和ハウスが全国に展開する主力生産拠点の一つである。
住宅用部材・部品は軽量鉄骨により標準化が進んだ工業製品であるのに対し、事業用建築の鉄骨部材は重量鉄骨を基本とした単品生産の鉄骨製品である。両者の違いは前者の床が木であり軽量な建築を対象としているのに対し、後者はRC床を基本とする重量の大きな建築を対象としているということであろうか。今後、大和ハウスの「共創・共生」の基本姿勢が発揮され、両者が融合することにより、CLT等の木質新材料を活用した新しい建築システムの出現に貢献されることを大いに期待したいと思った次第である。
国内研修の2日目は、今年の案内役である上柿さんの経営する「上柿鉄工建設本社工場」の視察である。上柿鉄工は大和ハウス奈良工場のような大規模工場ではないが、本来工場経営にも研究開発にも熱心な上柿さんの工場であり、地域の建築を支える優良な中堅工場として、関連する製品や塗装ロボットの開発などもてがける等、将来が楽しみな工場である。
上柿鉄工の視察の後は奈良の観光ということで、上柿さんの案内により「キトラ古墳」を訪問した。2日間の上柿さんの丁寧な心のこもったご対応には心より感謝申し上げる次第である。
(2)鋼木混合構造シンポジウム
超高層ビルに木材を使用する研究会が主催し、SASSTが共催の「鋼木混合構造シンポジウム」は今年で13回目となるが、11月7日、鹿児島大学稲盛ホールにおいて開催された。今年のシンポジウムのテーマは、「木質混構造の多様な展開と今後」とし、特に「木質異種複合材料」の研究開発に着目して、鹿児島大学の塩屋晋一先生、帝人株式会社の佐藤嘉弘様、それから木質混構造の最近の動向として三菱地所設計の海老澤渉様の3名をゲストとしてお迎えし、お話しを頂くこととした。
木質異種複合材料とは、木材(集成材)と鉄筋や炭素繊維等の異種材料を複合することにより、従来の木質材料に比べ剛性・強度共に性能に優れた新材料のことである。木材の軽量な特性を活かすことにより、特に大スパン構造建築等の建設に有効な工法として期待される。
我国の非住宅中大規模木造建築が脚光を集め始めたのは、10年程前の事である。当初は海外からもたらされた木質の大規模なマンション建設等のプロジェクトが話題を集めたのであるが、特に注目されたのは直交集成材(CLT)の応用である。その背景としては、海外では鉄筋工や型枠大工等のRC建築を支える熟練工の不足が顕著となる中、それに対処するため、コンクリートに変わる新材料として木質パネルが注目されることになったのである。一方我国でも10年程前からCLT等の木質パネル工法は導入されたが、海外とは異なりCLT一辺倒とはならず、各社、各設計者が工夫を凝らした新しい技術が多様に花開くことになったというのが、我国の特徴と思われる。
3名のご講演の後行われたパネルディスカッションで気が付いたことであるが、我国の建築の床はRC構造から始まったこともあって、木質材料を使うことにより建物が軽くなる事のメリットについて構造技術者は必ずしも認識していないのが実情ではないかと思われる。
例えば木質パネルの床を採用しても防耐火の目的から木質パネルの上部に100mm程度のコンクリートを打設してしまうことが多いが、これでは通常のRC床と重量が変わらないことになってしまう。建物の木質化は環境対策や、意匠的魅力から採用されることが多いと思うが、軽量化に着目した試みももっとあっても良いのではないかと思う次第である。
(3)鉄骨技術フォーラム2025
SASST主催の鉄骨技術フォーラムは11月21日に開催された。本フォーラムは2015年に第1回を開催して以来,鉄骨構造に関する法規関係,構造設計,鋼材,工場製作,現場施工,各種接合部の設計と施工等に関して会員から提示された各種の疑問に対し本会の役員が直接回答する方式で行われており,実践的で問題解決型のフォーラムとして定着している。今回で第11回目となるが,今年も例年に違わず多様なテーマについての意見交換が活発に行われた。
今年度のフォーラムでは昨年度2月開催の「鉄骨技術シンポジウム」を踏まえ、SASSTからの情報発信の要素も取り込んだプログラム構成とした。SASSTからの情報発信については、私からは「鋼木混合構造」と鉄骨造の柱梁接合部の簡略化を目指した「鉛直スチフナ工法」の紹介を行った。特に鉛直スチフナ工法は、3階建て以下の小規模の鉄骨造建物に焦点を当てた技術開発であるが、それら小規模建築は我国全体で毎年建設される建築の実に6割(床面積を基本として)を占めることが分かっている。この技術も床の木質化等により建物が軽量化された場合特に有効性を発揮する。
3つのイベントを通して特に印象的だったこととしては、建物の木質化による建物の軽量化について、そのメリットがクローズアップされたことである。2つの団体の将来の方向性を考える上でも、有意義なイベントであったと感じている。
(稲田 達夫)
