メールマガジン第133号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第89話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

89.小規模建物向けの鋼木混合構造建築の開発

 

 今から30年程前、仙台の花京院スクエアという鉄骨造の超高層ビルの構造設計に取り組んでいた時のことである。基準階の階高が3.8mであるのに対し低層階(1~3階)の階高は5mと大きく、その結果1~3階の地震応答変形が目標値以下にうまく収まらず大変苦労した。

 理由としては、階高が大きな層は、相対的に剛性が小さくなり、地震による損傷は剛性の小さな層に集中することから、このような結果となったのである。それで思い切って1~3階の損傷が起こらないように頑丈な筋交いを入れてみたのであるが、そうすると今度は1~3階の応答値は収まったが、4階以上の応答値が増幅してしまい目標値に収まらないことになった。

 

 それで、その頃開発を進めていた履歴型の制震装置を低層階に筋交いの代わりにいれてみた所、応答値は全層ともにきれいに目標値に収まってしまった。履歴型の制震装置というのは、鋼材等に適度の損傷が生じることにより地震エネルギーを吸収するように考えられた耐震要素のことであり、応答値が収束するというのは考えてみれば当たり前のことであるが、しかしこんなにうまく変形が収まるのかということで大いに感心したものであった。

 

 純ラーメン構造(柱梁フレームのみで壁の無い構造)の場合、地震エネルギーの吸収は、梁端の鋼材が降伏することで行われるが、梁端の降伏はほぼ同時に進行することから、一旦フレームに降伏が生じると、さらに一気に降伏が進みそれに応じて大変形が生じてしまうということがよく起こる。一方フレーム梁端の降伏より早期に降伏が生じる制震要素が組み込まれていると、制震要素が地震エネルギーを吸収しフレームは降伏せず弾性範囲に留まることになる。この場合制震要素はフレームの振動を抑制する減衰としても働き、またフレームの降伏が生じないことから、建物の変形は安定し小さな範囲に抑え込むことができる。

 このような構造のことを柔剛混合構造と呼び、建物の耐震安全性確保の基本形と考えられている。柔剛混合構造が成立するためにはフレームと制震要素の降伏強度と剛性のバランスが重要である。花京院スクエアの場合にはこのバランスがたまたま大変に良い状態になったのだと思う。



 さて、なぜこのようなことを書いたかというと、今の時期は来年度の開発計画を考える時期に当たっている。

 私は山佐木材に赴任して以来、鋼構造フレームと木質パネル制震壁を組み合わせた鋼木混合構造の開発に取り組んで来た。鋼木混合構造は、鉄骨フレームと制震要素のバランスが良いことから柔剛混合構造となり、耐震性に優れた建物の設計を行うことができる。さらに、木質パネルの床を用いることにより軽量化することにより、地震入力エネルギーそのものも抑え込むことも可能であり、総じて耐震性の高い建物の設計が可能になる。

 一方鋼木混合構造は、市販の一貫構造計算プログラムなどでは構造計算を行うことは難しく、構造設計者にその特性を理解して頂くことに苦労してきた側面もある。ただ、この鋼木混合構造建築も3層以下の小規模建物であれば、木造住宅の設計でよく用いられる「壁量計算」のような簡便な手順で構造計算を行うことが可能ではないかと思えるようになってきた。

 

 これまでは主として大型ビルに木材を活用する場合を想定した開発活動に取り組んで来たが、木材の需要拡大は今一つである。特にCLTについては全国の需要をみても、海外に比べてもはるかに低いレベルに留まっている。今年は、新築着工床面積としては全建物の6割以上を占める小規模建物の開発に視点を切り替えて、開発計画を立て直し、CLTの需要拡大に多少とも貢献できないものか考えているところである。

 

(稲田 達夫)