メールマガジン第137号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第93話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

93.今さら聞けない常識と非常識

 

  今回は構造設計の話である。私は「建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)」という長い名前の協会に所属している。その協会の活動に関する話題を少し紹介する。

 

 昔、建築のデザイナーと話をしていて、この建物を「壁式ラーメン」で設計できないかと聞かれたことがある。壁式ラーメンというのは聞きなれない言葉なのでそれはどんなものなのかと尋ねると、長手方向の壁を柱と見立てて床を梁と見立てれば純ラーメンが構成されるので、それで構造設計が成り立てば、非常にすっきりとした建物になりこの上ないと言うのである。

 壁式ラーメンの構成される構面方向に、耐力壁をある程度入れることができればなんとかなるのではないかと答えると、建築基準法上は壁が少ない方が必要保有耐力計算用のせん断力も小さくてすむはずだから、壁等は入れない方が良いのではないかと言われた。鉄骨造の必要保有水平耐力のことが念頭にあったかもしれないが、必ずしもそう簡単な話でもないので、説明に大いに苦労した記憶がある。

 鉄骨造の純ラーメンについて言えば、地震などにより過大な外力がかかると梁端部の降伏が一気に進行してしまい、大きな水平変形を引き起こし、その変形により建物そのものは倒壊することは無いとしても、外壁等が壊れてしまい地震が終わった後建物は使い物にならなくなるということもよく指摘される。

 純ラーメン構造というのは建築的には耐力壁のような邪魔なものがないので、合理的であるというのが一般的解釈であり、それに建築基準法の必要保有水平耐力の取り扱いが加われば、純ラーメンは優れている思われがちであるがそう簡単ではない。このように常識としていつも余り深くは考えていないことで、実はちょっと見方を変えると大問題というような事柄は他にもいろいろある。

 柱梁の接合を梁端部で溶接を行い、その梁端で部材降伏させるというディテールは極めて一般的なものである。但しこの場合梁端の溶接は完全溶け込み溶接とし全数超音波探傷検査を行うという極めて手間のかかることが前提となるが、降伏点である梁端に繰り返しの塑性変形が生じても靭性のある接合が実現できるということで、あまり疑いを持たずにこの接合法を採用している構造設計者は多い。

 一つには完全溶け込み溶接を用いたこの柱梁ディテールは、保有耐力接合と呼ばれ、この場合柱梁接合部の構造強度は鉄骨の母材と同等であることが保証されることから、構造計算による溶接部の検証が不要となり構造設計の手間が省けるという事もこのディテールが採用される一因になっているようである。しかし鉄骨の製作側から見れば、その分随分手間がかかることを強要されているようにも思えるのだがどうだろうか。超高層ビルの設計なら分からなくも無いが、3階建て以下の小規模鉄骨造でも同じディテールが採用されているのを見ると、本当にそこまでやる必要があるのだろうかと気になることがある。

 

 さて、突然なぜこのようなよく分からない話を始めたのかと言うと、実は4月頃SASSTの学術会員の先生からメールで、「鉄骨の純ラーメンというのはどう思いますか」という素朴な問いかけがあり、メールで何度かやりとりをしている内に、一度SASSTの場を利用して意見交換会をやらないかということになった。題して「今さら聞けない鉄骨構造の常識と非常識」、秋に開催予定のSASST鉄骨技術シンポジウムのテーマとすることにしたのである。

 純ラーメン構造の問題については、解決策として「制振装置」の利用や木質部材の活用による建物の軽量化など、様々な方法が想定され、広がりのある意見交換が期待できそうである。

 これから、SASSTでは秋にかけて国内研修、シンポジウム、フォーラムと様々な交流会が目白押しである。純ラーメンのような素朴な問題が、どんな話に展開して行くのか今から大いに楽しみである。

(稲田 達夫)