メールマガジン第27号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い ~地方創生は国産材活用から(9)

 「コンクリートから人へ」より「コンクリートから木材へ」(名古屋城木造復元計画)

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 民主党が2009年に政権を取った総選挙では、「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズが盛んに使われた。その当時は選挙民の共感を得た表現だったが、今ではすっかり影が薄くなっている。「何故だろうか」と考えてみれば、「コンクリートが、公共事業の代名詞として使用」され、否定的に見られていたからと思う。公共工事を減らし「人=福祉」へ国家予算をシフトすれば、国民の生活は大きく改善されるかの如く誤解させた表現だった。

 

 私も福祉や弱者救済的な予算を増やす政策を全面否定するものではないが、限りある国家予算の中から、公共工事を削り福祉予算を単純に増やすだけで、それだけで人々の生活環境が急に良くなると思った事が問題だった。時間が経って再点検してみると、「人々の住み易い安心安全な環境を作るには福祉予算の増額だけに走らず、適切な公共投資を行う事は同じ位に重要である。要はバランスなのだ。」と思い知らされた。

 当時の「民主党のバラマキ型政策」は偏り過ぎた面が目立ち、社会全体は良くならなかった。国家の長期的な視点に立った運営には、多くの経験とバランス感覚が問われる事を国民が知る所となり、政権への期待が一気に萎んだ様に、公共工事を削減するだけではメリハリの効いた予算案とはならない事と、国家百年の大計を建てる事の大切さに気付かされた。特に最近の次々と起こる異常気象の発生で、河川改修等の土木工事の再構築が、要求され始めたのは皆様御存知の通りです。


 そして3年後の選挙で自民党が復権し、必要な公共事業投資は長期的視線に立って組むべしと、「国家強靭化計画」へと名称もグレードアップされて復活路線が始まった。これと機を同じくして、近年の公共事業が「コンクリート中心の構造物」が優先され過ぎて来ていた事が反省されて、日本の伝統文化の中で重用されて来た「木質資源を活用した木構造」を、適切に採用する事が「国土の景観の質」を高めると気付かされる事になった。

 国家予算ではないが、木材復権の傾向を示す公共工事の一例として、「名古屋城の木造復元計画」が話題となっているので、今回は取上げてみる。


 「尾張名古屋は城でもつ」と言われた名古屋城は徳川家康によって築かれ、「金のしゃちほこ」が載る天守閣は1609年に着工され、1612年に竣工している。そして熊本・大阪城と共に三大名城に数えられている。(三城とも惜しむらくは本物は残っていない。)名古屋城は「近世城郭の最高傑作」として国宝第一号へ指定されていたので、戦前に詳細な実測図が作られ、更に文献や古い写真・障壁画も保存されていた。残念な事に天守閣は1945年5月14日の空襲で焼失したが、復元出来るだけの資料が豊富に残っていた事と、名古屋市民からの再建を望む声に押されて、建設費用は当時の6億円のうち2億円が地元民から寄付金が集められた。そして「二度と燃えたり、壊れたりしない様に」との当時の世相が優先されて、鉄骨鉄筋コンクリート造で1959年に完成している。

 

 詳細な図面や資料を使って再建されているので、鉄筋コンクリート造の躯体以外は、見た目は焼失前と変わらなく再建されている。しかし年間1600万人の観光客が集まる客の一部からは、コンクリート造では「お城型の博物館でしかない」との批判も聞かれる。

 しかも建築55年を経てクラックも多数発生し、老朽化が激しいので現状では、耐用年数はあと40年程度と診断されている。その上に東海地震が現実的な話題となってきているし、「震度6~7で、御城は倒壊の恐れがある」と予測されているから由々しき問題だ。

復元された名古屋城(鉄筋コンクリート造)
復元された名古屋城(鉄筋コンクリート造)
国宝の姫路城(木造)
国宝の姫路城(木造)

 河村たかし名古屋市長は、今年の9月に名古屋市内で開かれた「名古屋城木造復元計画フォーラム」へ出席し、市民を前にして「東京五輪に間に合わせるためには、来年度から計画を進める必要がある」と力説して紙面を賑わせた。太いヒノキ柱から漂う木の香りに包まれ、今のコンクリート床から歩き易い本物の板張りへと変わり、木製階段を上ると城下の眺望を楽しめる本物の純木造で復元されるなら、観光客は「殿様気分を楽しめて、名古屋の新しい自慢の建物が出来る」と期待を込めて話されている。

 既に本丸御殿は、豊富な資料をもとに、総工事費150億円を掛けて、2009年から復元工事へ着手している。河村市長は本丸御殿や城下町の街並みも再現する「金シャチ横丁計画」と併せて、観光客の増加が見込めると期待している。


 名古屋市の試算では、城復元の総工費は最大400億円と推計している。一方で現在のコンクリート造のままでは劣化は避けられず、今の天守閣を維持するにも耐震補強する必要があり、その場合でも約30億円の費用が見積られている。国の特別史跡に指定されているので、前回の再建時と違って文化庁は、次回は「記録に基づく木造復元以外に再建を認めない方針」であり、「再建は木造の限る」と発表している。

 天守閣を残すとしたら、いずれ木造で建築するしかなくなる訳だ。木造で復元できれば文化財としての価値は各段に高くなるが、今の天守閣の耐震補強も急務で、いずれにしても早く決断する必要がある。

 

 全国では名古屋城の他にも、江戸城(東京)や小田原城(神奈川)等でも、天守閣の木造復元の運動が始まっている。鹿児島でも鶴丸城の御楼門復元だけでなく、もっと大掛りな木造施設の復元候補は無い物だろうか。貴重な日本の伝統や文化を表現するには、「コンクリート造から木造へ」の復元運動を始める事の大切さに、日本人も気付き始めたようだ。それに応えられる木材業者や宮大工群が育つ事に期待したいものだ。

(西園)

参考 江戸時代からの現存木造天守閣は、次の通り12城です。

皆さんもチャレンジして「日本の伝統的な木造の素晴らしさ」を体験してみませんか。ちなみに私は未だ3城が未登城ですが、完全登城を目指すつもりです。

  国宝:姫路城・彦根城・犬山城・松本城 以上4城のみです。

  ⇒27年7月「松江城」の国宝指定に伴い、国宝4城⇒5城になりました。修正いたします。 

  重要文化財:弘前城・丸岡城(福井県坂井市)・備中松山城(高梁市)・ 丸亀城・松山城・宇和島城・高知城  以上7城です。 合計 12城です。