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★【社長連載】 Woodistのつぶやき(6)
「森林は本当に皆伐すべき?」
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最近、林業に関係する人と話をすると、「皆伐する」「皆伐すべき」とまず殆どの人が口をそろえます。もちろんこれは皆伐後にはきちんと再造林する、という前提であろうとは思いますが。
我が社が平成27年から原木供給協定を結んだ曽於地区森林組合さんは、当社使用原木(現在年間5万m3)の40%以上を納材して戴いています。
堂園組合長によると、皆伐した場合必ず再造林するようにしているとのことです。それでも「皆伐、再造林が今後更に増えれば、労働力確保の点で植林まではよいが下刈り作業が困難になるだろう」との懸念を示されました。
なお堂園組合長などの奮闘にも関わらず、「鹿児島県は再造林率が全国でも最低レベル」ということもこれまた事実のようです。
ほんの数年前までは「間伐しながら長伐期」が正しい林業のやり方と考える行政、実務者たちも結構いました。それが最近の大転換です。このような長伐期から短伐期へ転換するに際して、何か合理的な理由や納得のいく事情の変化があったのでしょうか、私にはどうもそのようには思えません。
いろいろ聞いているのですが、皆伐論を言う人になぜ?と聞くと、一つには「数値目標があるから」という人がいます。これはもし無理なら数値を直せばよいわけですから論外とします。
もっと耳に入りやすい皆伐論の根拠は「皆伐が間伐より伐採コストが安い」、従って山主により多く還元できる(立木代を多く払える)という論拠(もしくは心情)に依っていると思います。これは正しいのでしょうか。
検証してみましょう。
皆伐コスト、間伐コストについては、さるベテラン素材業者に「皆伐コストと間伐コストではどのくらい違うもの?」と聞いたところ、「30%までは違わない」とのことでした。皆伐コストは県内でも6,000円くらいと聞くので、これを前提としました。間伐は皆伐より30%割高ということで、一応8,500円としました。(6,000/8,500=約70%)
300m3を皆伐と間伐で収穫した場合、その伐採コストは
・皆伐時 6,000円×300m3=1,800,000円
・間伐時 8,500円×300m3=2,550,000円 となります。
一方この原木を売却したときの収入は
・原木売却収入 11,000円×300m3=3,300,000円
山元収入
・皆伐時 3,300,000円-1,800,000円=1,500,000円
・間伐時 3,300,000円-2,550,000円= 750,000円
但し言うまでもないことですが、皆伐なら1haでこの量になりますが、間伐なら4~6haの森林が必要です。
確かに皆伐の方がこれだけ林業所得が多くなります。但しそれは再造林をしなかった場合の話です。
植林、下刈り、除伐間伐、獣害対策費を含めた再造林費が1ha当たり75万円ならば、収益の差は差し引きゼロになります。
但し成木の山が幼令木の山に変化しているので、森林の財産価値は激減してしまいます。結果的に再び成長するまで無収入で、(しかも恐らく我が国の現状では再造林コストは75万円では納まらず)その間地域によってはシカ害など、何かと費用が掛かってくるでしょう。
つまり我が国では皆伐してしまえば、コスト面で再造林できない構造になっているのです。皆伐論の人はこのことに口をつぐんでいるのではないかと思います。だから「皆伐したら必ず再造林しなさい」との強い行政指導が出来ないのだろうと思います。
ただしもし50年程度で樹木の生長が止まるなら、これだけの出費は必要経費としてやむを得ないのですが、100年程度までは生長が続くことは分かっています。
一方間伐であれば、山の地力にもよりますが10年から15年後には再度間伐して所得を得られるでしょう。100年以上生長が衰えないならば、同じ山から数回は所得が得られ続けます。
北米で50年~60年での皆伐が林業として成立しているのは、よって立つ根拠があります。伐採コスト2,000円/m3以下、再造林コストがha当たり20万円以下で出来ているからです。現在の我が国林業システムもしくはスタイルでは考えられないことです。
次号以降、この七不思議の解明に取り組んでいきます。
(代表取締役 佐々木 幸久)