メールマガジン第41号>社長連載

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★【社長連載】 Woodistのつぶやき(8) 

 「我が国林業七不思議(解題編)他の林業国ではなぜ伐採費が2000円以下なの? 」

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前々号で我が国林業七不思議を列挙しました。

  • 不思議その1.それでもなぜ皆伐するの?
  • 不思議その2.山元収益が確保できるくらいに丸太価格を上げられないの?
  • 不思議その3.再造林率を高める方法はあるの?そして実際にそれは可能?
  • 不思議その4.同じ山を長伐期、短伐期と簡単に切り替えられるものなの?
  • 不思議その5.他の林業国ではなぜ再造林コストが20万円以下なの?
  • 不思議その6.他の林業国ではなぜ伐採費が2000円以下なの?
  • 不思議その7.なぜ我が国で他の林業国並の低コスト林業が出来ないの?

前回1月号では再造林費を取り上げました。

不思議その5.他の林業国ではなぜ再造林コストが20万円以下なの?

 

そこでカナダの再造林費用についてご紹介しました。

文中下記の書き込みをしていましたら、お二人の方からご連絡を戴きましたので紹介します。

 

「別途 juvenile spacing treatments と言う作業があるようだが、良く分からない。下刈り費と同じくらい掛かるようだから、これを足すと合計1800~2000$」

 

ニュージーランド在住 林産業・木材コンサルタント松木法生様より

 今回のメルマガでカナダのコストについて触れられていますが、juvenile spacing treatments とは、幼齢樹のときに木々間のスペースを確保するために行う、いわゆる「一回目の間伐」です。幼齢樹ですから捨て間伐となります。御参考まで。

鹿児島市 岩元文雄様より

 私は林業も木材も全くの門外漢ですが、社長連載に記載の「juvenile spacing treatments」は、文意から「幼木の間引き」のような作業ではないかと推察します。

 ブリティッシュコロンビア州では、JUVENILE SPACING QUALITY INSPECTION を策定されているのですね。(門外漢には理解できませんが)これからもメールマガジン楽しみにしております

 

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JUVENILE SPACING QUALITY INSPECTION.pdf
PDFファイル 1.1 MB

 お二人に厚くお礼申し上げます。我が国で言う「除伐」なのですね。とすると多分1回行えばよいので、前回2回行う間伐費用を2回分そのまま上乗せしましたが、1回分を足せばよいのかもしれません。とすれば、再造林コストは、間接費などは入れずに1600$~1800$ということになります。


 今回は伐採コストに焦点を当てます。

不思議その6.他の林業国ではなぜ伐採費が2000円以下なの?

伐採する樹木の大きさで伐採コストは大きく違うと言うことを、私は2人の人から教えて貰いました。

 

 昨年亡くなった国内林業の恩人とも言うべき、熊本県人吉市の泉忠義氏からは、

 「単木材積1m3を超えれば、伐採+搬出+運搬コストが、1m3当たり2000円で出来る。」

 

 またマルカ林業新永智士氏は京都大学大学院時代に、伐採効率を現場で子細に調査し、伐採コストは樹木の直径に依って大きく異なり、径が大きくなれば伐採コストは劇的に下がることを立証しました。

 

 以上のような証拠を基に、外国の林業を見ると殆どが皆伐時には大径材に仕立てる植栽をしています。

 

例外1.フィンランド 100年程度の伐採期間だが日照時間が短いため余り大きくならない。

例外2.南アフリカのユーカリ林業。早生樹のユーカリをチップ専用として、数年で伐採。小径木。

 

 100m3の木材を伐採するために、我が国では300本~400本伐る必要があります。一方殆どの林業国では30本~40本伐れば100m3になります。曽於地区森林組合堂園組合長が、「ニュージーランドでは1人1日に100m3伐採するげな」と驚いていましたが、40本弱伐れば100m3になるのです。8時間労働なら1時間に5本、12分に1本伐ればよいのです。恐らく日本の方がもっと沢山伐っているでしょう。

 

 大きい木材を伐るために林業機械はかなり大型化する必要はありますが、伐る本数が10倍も違えば、伐採コストが高くなるのは当たり前でしょう。

 

 ではどうやって大径木に仕立てるのか。それはひとえに、伐採までの育成期間と植栽本数に依ります。

 

・植栽本数と皆伐年数との関係

皆伐年数  120年   植栽本数   3000本  ヨーロッパ

      50~55年       900~1100本  北米

      25~30年       500~ 600本  ニュージーランド

 

 いずれも主伐時には1ha 当たり400m3 ~700m3、残存本数は200本から300本、単木材積は2~3m3、すなわち100m3 に対し  30~40 本

 

 一方我が国では3000 本植えが主流です。長伐期のヨーロッパと同じです。ヨーロッパ並みに100年以上間伐・択伐による収入を享受しながら皆伐するならば、そのときは単木材積は2~3m3になり、他の林業国並に、伐採コストは2000円を切ると期待されます。

 

 それを現行のように45~55 年で主伐する時には、まだ残存本数は1200本以上残っており、300m3 ~500m3の材積だと単木材積は0.25~0.4m3,即ち100m3 に対し300 本以上の伐採本数となります。 

 

・3000本植の場合 皆伐までの間伐・択伐

     10年目    2700本

     25       1900

     40       1300     

     55       900        我が国では45年から50年くらいで皆伐に

     70       640

     85       450

    100~110年目 皆伐

 

・1000本植の場合の間伐と皆伐の動向

      10年目  900本

      25     630

      40     440

      55~60  皆伐

 

 

 なお樹木の生長量は当然ながら、気候、地力、樹種、品種によって差が出ますが、本数を沢山植えても面積当たりの総生長量は変わりません。穀物の苗を沢山植えれば総生産量が増えると勘違いして、大号令の結果大勢の民が餓死した某国の事例を聞いたことがあります。

 

 樹木の年間生長量は1ha当たり、通常10m3~20m3と言われています。120年の長伐期体制が全国で整ったドイツでは全国の平均生長量が14m3と聞きました。我が国では50年を超えるとスギの成長が止まると言われていましたが、それは恐らく間違いでしょう。

 

 植栽本数と皆伐年数はこのように密接に関連しています。伐採コストを大幅に引き下げるためには、伐採時の単木材積が大きく関わります。何年で伐るのか、地力はどうなのか、それらを基に植栽本数を適切に決めることが大変重要です。そしてかつて3000本植栽している森林は、50年で皆伐しても決して利益は出ません。もちろん再造林費も出ません。長く択伐を繰り返して、細く長く利益を享受して下さい。 

 (代表取締役 佐々木 幸久)