メールマガジン第51号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(33)

 「木材保存と白蟻対策とホウ酸」

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 私のメルマガ原稿は、基本的には「木材需要拡大の一助になれば」との思いで書いている。そのためには「木材の特徴のある使用事例と話題」を色々と紹介する事で、更なる需要の開拓が出来ればと考える。

 

 昔は建築物はもとより、生活用具や生産道具類にも木材は主要材料として幅広く使われて来た。特に日本の伝統文化の中核として存在価値の高い「建築物での木材使用例」は、現在の木造建築でも学ぶべき事例は多く、今後の木材の需要拡大への参考事例も数多く見つけられる。中でも我が国の代表的大型木造建物の法隆寺は、1400年を経て益々存在価値を増しているし、戦前の建物でも風雪に耐えて「木造ならでの風格」を感じられる物件は多い。

 所が敗戦により、日本人が一番苦労した時代だからなのか、「戦後の約20年間に建てられた木造住宅の耐久性は乏しく、建築の建替え平均年数も30年程度しか期待出来ない」との認識が広がってしまった。その上に昭和30年前後は、国会や土木学界で「木造建築は出来るだけ敬遠すると決議」までされた。地震や火災対策等を考えれば、「コストは木造より少々高くても、RC造建築を検討しようとの風潮」も生まれる等、「木造にとっては残念な時代」となった。

 「昭和10年以前の木造建築物は耐久性が高い」との評価に対して、「戦後の木造建築物の耐久性は低い」との認識が広まった訳だが、一度失った信用を取り返すのは簡単では無く、負の遺産を残した事になっている。このギャップや誤解を如何に解消するかが、今後の木材の需要拡大を進める上での課題と言える。

 

 RC造建築物に比べて「木造建築の弱点」と言われる主な問題点は、「①防火問題、②白蟻対策を含めた耐久性の問題、③広いスパンを採れるかと構造計算の問題、④高さや階数の制限」等が挙げられる。(「木造の良さ」よりも「木材の弱点」が話題となった時代に、木材関連業界が火消しに走るべきだったが、昭和40年代前半までは手付かずとなってしまった。遅れを取り戻すのは大変である。)

 木造建築物の弱点4項目のうちの、①防火問題と、③広いスパンの採用、④高さ制限等については、大断面集成材の活用に続いて、この30年間に「防火基準」や「構造計算の基準」が数字化され、法や基準は徐々に緩和・改正されて来た。そして現在は「3階建て3000m2までの学校建築の木造化」も可能になって来ている。また4階建てまでは、「1時間耐火基準」をクリアーすれば都市部の防火区域内でも木造建築が可能となっていて、更に14階建ても「2時間耐火基準」をクリアー出来れば、木造建築が可能となっている。それ以上の高層建築物でも、新しい規制基準に対応出来さえすれば、「木造建築が可能な時代」なのである。

 

 所が「②耐久性問題や耐蟻性」については、「基準が曖昧なためなのか、現場では誤解され運用されている事例」が見られる。その原因は「木材は利用条件次第で耐久性の格差は大きい問題が、曖昧なまま運用されて来ている」からだと思う。木材は「乾燥状態で使用されるか、湿潤な環境の中で利用されるかで、耐久性に大きな格差が生ずる」事を、十分に考えて使用すれば問題は起き難いはずなのに、現実はそうなっていない例が多く見られる。

 例えば「ヒノキは耐久性も高く、対シロアリにも強い」と信じ込まれているが、その常識は正しいのか皆で考えて欲しいものだ。我が国の住宅建築の標準的基準として広く利用されている「住宅金融支援機構の木造住宅工事仕様書」の規定と、現場の実態とにはギャップが在る。

 木材は自然産物だから産地や樹齢や、また辺材部か心材部であるかで個別の性能や強度や耐久性に大きな差が有る。所が関係者に十分に理解されていない様な使用例が見られ、木材の利用状況での性能の違いが無視されて、一様に扱われている事が「木材の利用面での信用を失している」と考えられる。更に建物の建築条件や場所、そして使用環境や建物の維持対策や管理次第で、木造の耐久性は大きな格差が生じるのに、何故か誤解がまかり通っている。

 私が専門の人達に「木材利用での個別格差」について質問すると、大半の人達が私の説に反論しないのに、木材の個別性や建築物の多様な使用条件が無視されたまま、現場では使用されている例が多い。この様なミスマッチこそが「木材の需要拡大へのネック」となっていると私には思えてならない。 

 

 木材利用の現状に詳しい木材関係者は再度原点に立ち戻り、木材利用面での長所短所と現状との格差を根本的に見直し、利用者や市民へ丁寧に教え直す必要が有る。一般市民に木材の個別性と特殊性を十分に教える努力が足りなかったから、「最も理想的に利用された場合の木材の長所」を、同じ様に「全ての状況で最大性能を発揮する」と勘違いされている。隠されている問題に過大な期待を抱かせたままにしている誤解が、何かの時に「弱点として表に現れ、木材への不信感を際だたせる」事となって、そのギャップが需要拡大のネックとなっていると私は思う。

 

内側=「心材」(しんざい)、外側=「辺材」(へんざい)
内側=「心材」(しんざい)、外側=「辺材」(へんざい)

 

 まずは「住宅金融支援機構の木造住宅工事仕様書」を再点検して欲しい。(今回は南九州地域での耐久性や防蟻性の問題を話題とするので、北海道や東北地区の寒冷地の規定等は除外して書く事とする。)

 

「4.3 木部の防腐・防蟻措置」の規定文章の、「土台は、ヒノキ・ヒバ・ベイヒ・ベイヒバ・クリ・ケヤキ等の樹種を」と列記されているが、「その他の材種」については「JASによる木材保存処理区分K3相当以上の処理材を用いる」と明記されている。問題は「辺材と心材との耐久性の性能格差」が明示されていない事と思う。辺材と心材部分の性能の格差は大きく、更に「心材でも木材の隋部分の耐久性や防蟻性はかなり弱い」事が、「要注意点」として取り上げられていない。

 また成長の早い九州等の温暖地域産材と、北日本地区の寒冷地産材との耐久性の格差は、成長量の違いも有り当然に大きいと考えて使用するべきなのに、仕様書では産地間格差や樹齢差までは言及されていない。

 

 更に「留意事項」として書かれている「表4・3-2の心材の対腐朽性・耐蟻性比較」について、現場では曖昧なままで運用されている事も問題と思う。もう一度、下記表を良く読み直して欲しい点は、「ヒノキの耐蟻性は中」とハッキリと書かれている事である。何故この表記例を建築現場では注目せずに取り組まないのか、不思議な問題である。木材の辺材部分の耐蟻性は心材に比べて弱い現象は誰でもが知っている事で、ヒノキでも同じなのに勘違いのまま使用されている。私が言いたいのは、ほとんどの樹種の「辺材部分は全て、K3以上のJAS規定の加圧式保存法で処理した方が安心安全である」と提案したい。

 

区分 樹種
対腐朽性・耐蟻性が大 ヒバ・ベイヒバ
対腐朽性が大、耐蟻性が中 ヒノキ・ケヤキ・ベイヒ
対腐朽性が大・耐蟻性が小 クリ・ベイスギ
対腐朽性・耐蟻性が中 スギ・カラマツ
対腐朽性が中、耐蟻性が小 ベイマツ
対腐朽性・耐蟻性が小 赤枩・黒松・ベイツガ

 表4・3-2の心材の対腐朽性・耐蟻性比較より

 

 同規定の「加圧式防腐・防蟻処理木材の性能区分で、『土台材にはK3処理を』との記載の後に、「腐朽やシロアリ被害の激しい地域ではK4処理を」と明記されている。しかし現場では規定通りに運用されていない現状は、是非とも考え直して欲しい問題である。「表4・3-4の建設地域別の防腐・防蟻の運用はK3以上」との規定を、都合良く解釈しているとしか考えられない。比較的被害の小さなヤマトシロアリの生息地区である関東地区以北に比べ、蟻害が激しく獰猛なイエシロアリの生息する南九州や沖縄地区では、「K3以上」との記載に注目すべきである。「以上とは、K3よりもK4処理を推奨している」と考えるべきなのに、現場では何故か話題とされていない。

アリとシロアリの見分け方

*アリ=触覚が「く」の字。前羽が後羽より大きい。体にくびれがある。

*シロアリ=触覚が数珠状。4枚の羽が同じ大きさ。体にくびれがない。


 

 更に「軸組材は、120mm角以上の使用を」と表記されている。隅柱は120角が使用されても、他の柱材は105角の使用例が多く見られる現状も一度議論すべきと思う。同仕様書の中では「現場処理による場合は、地面からの高さ1Mまでの木部の防腐・防蟻処理」と規定されている。東京や関東地区以北の、冬寒い地区の建築なら適当かもしれないが、「南九州の木造住宅でのシロアリ対策」としては大問題である。仕様書は最低基準であるから、「現場はもっと過去の体験を活かして、南九州での適切な防蟻対策」を考えて施工して欲しいと思う。

 更に私が危惧するのは、「工場での処理土台は、K3以上の性能確認をするための検査が徹底されていない」問題である。「住宅金融支援機構の木造住宅工事仕様書」には「最低基準」が書かれているのだから、「基準以下の処置では、木造住宅の十分な耐久性能は期待出来ない」と考えて、木材保存対策をもっと厳格に徹底する事を考えるべきと思う。

 

 現場で薬剤処理する場合の施工基準は「木材表面積1m2につき300mlの散布が条件」とされているが、その前提としての「薬剤濃度の検査や、散布量の確認方法」では具体的基準が書かれておらず、現場担当者任せとなっているが、それで良いのだろうかと心配になる。

 又防蟻対策として「木部処理や床下の土壌処理」は有効だが、問題は「現在の日本木材保存協会の認定薬剤の基準は、持続効果が5年程度」である事だ。20年前までは「床下の管理や、後から再処理する事は困難だからと、持続効果の高い薬剤が使用」されていた。しかし「人体への健康問題への心配が大きい」と問題視され、現在は「健康への影響の少ない、残存期間の短い薬剤」が認定条件となっている。現在使用されている「現場処理の防蟻用薬剤の薬効期間は5年程度」とされているから、「5年以降の対耐蟻確保には定期的な対策」が重要だが、大半の家屋では忘れられているのが現実である。

 木造住宅の維持対策からは重要問題なのに、大きなシロアリ被害を受けてから「思いもよらない多額の駆除工事や補修工事費を負担した」事例を多く聞く。南九州に生息するイエシロアリは、「水の運搬能力を持つため、2階の屋根裏まで活動用水を運び、被害が大きくなる原因となっていると考えて、事前の予防措置に気を付けなければならない。(想定外の被害とは、不注意から起きると考えるべきと思う)  

 

 1995年に起きた阪神大震災直後の話になるが、「木造住宅は地震に弱かった」との、誤解を招く様な報道に大いに疑問を感じた私は、倒壊現場を点検のため3日間、足を棒にして朝から夜まで歩き回った。被害の惨状も記憶に残るが、被災地の倒壊した古い木造住宅は戦後に建てられた木造密集地であった。倒壊した木造のほとんどは、土台や柱の基礎部分だけでなく、間柱や板壁の下地材まで徹底的にシロアリ害を被っていて、木部のほとんどが食い尽くされて姿形が無くなる状況であった。構造材としての強度は期待できない状態となり、地震による倒壊の前に建物寿命が尽きていて、報道の表現とは全く異なる調査経験を持っている。

 シロアリは日光と乾燥を極端に嫌う性質を持つので、住人が気付き難い建物部分を食害する「建物のガンと呼ばれ、木材の内部から徹底的に食害するため、シロアリ被害に気付いた時は手遅れになっていた」状況を、ほぼ全部の被害住宅で見せられた。

 その実態と原因を多くの人達に知って貰いたいと、「木造住宅の保存対策の重要性」の基本的な問題の啓蒙活動に取り組んだ事を思いだす。(報道は被害を煽ったが、関連の原因や根本的な解決策は何も伝えなかった。センセショーナルな表現だけが国民の記憶に残り、「木造住宅は弱かった」とのマイナス印象を残し、プレハブ住宅の増加を招いて、在来木造住宅には大きなマイナス要因となってしまった。

 私は「阪神大震災でも、木材保存対策と耐震対策の基本に丁寧に対処していた木造は弱くなかった。弱かったのは基本を無視した木造住宅だった」との調査報告書を方々に配り、シロアリ予防の重要性の啓蒙活動に努めた。)

 

 時を前後して、木造住宅の現場処理では「長期的な防蟻効果の高い薬剤は、人への健康面や環境問題から使用禁止」となった。その結果、木造住宅の保存対策としては「人体への影響が少ない防蟻薬剤を使用し、5年毎に再処理を確実に行う」か、又は「人への健康面の影響の少ないとの評価の高いホウ酸を使用する」かの何れかを選択をする時代と変わっている。

 ホウ酸の特徴は「処理後に時間が経つと共に、木材の内部へ浸透する後期浸潤性の特徴」を有するから、最初で高濃度の薬剤を丁寧に処理しておけば、5年毎の再処理手間も省ける可能性が高い。

 ホウ酸は昔から「目薬や農薬」としても使われ、地球に豊富に在る資源であり「人への健康面の影響は無いが、昆虫類への殺虫効果が高い」から、住宅用シロアリ対策薬剤としては理想的と言える。但し「ホウ酸は、屋外や湿度の高い場所で使用すると、流脱性が高い性質」も有するので、その点の使用上の注意は必要である。「住宅等の雨仕舞をしっかりした建物内なら、ホウ酸処理が最適」とされ、アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド等では、住宅の防蟻対策の80%が、ホウ酸で処理されているそうだ。

 

 日本でも最近は、居住者の健康優先思考から「ホウ酸によるシロアリ予防対策施工例」が増えている。山佐木材は大型の注入缶を設置し、精度の高い加圧式ホウ酸処理を行っているので、安心して採用して頂きたい。(山佐木材の防腐防蟻について ※質問や御意見や相談事が有れば、何なりと連絡下さい。工場見学も可能です。)

 最近のシロアリ対策工事では、「薬剤散布方式」だけでなく、「白蟻が自分の巣までエサを持ち帰る習性を利用して、薬剤を浸潤させた杭等を建物周辺の要所に設置するベイト工法」が関心を集めている。建物内に薬剤散布をせず「5年毎の再施工の手間が省略できる」との特徴から施工例が増えているそうだ。

 

 日本に生息する代表的なシロアリは、東北地域以南に広く生息するが、自ら水を運ぶ能力が無い事から、住宅の低床階の湿潤な場所に被害が集中する「ヤマトシロアリ」と、九州四国等や関東以南の海岸線に生息し、自ら水を運ぶ能力を持つために住宅の2階の屋根裏まで、大きな被害を及ぼす「イエシロアリ」の二種類が居る。

 所が40年前に、米軍の資材等に付着し日本へ侵入して来たと言われる「アメリカカンザイシロアリ」による被害例が、沖縄や九州から横須賀近辺の米軍基地の街や港町で数多く見つかって、その後被害が広がっている。日本の在来2種に比べて、乾燥材を貪欲に食害するので家具類や建物の屋根裏や上層階まで被害が及よんでいる。従来のシロアリ駆除薬剤では駆除し難い場合が多い事と、生活環境の中での被害が多いために、人間の健康対策からもホウ酸での駆除例が多くなっている。特に沖縄ではアメリカカンザイシロアリの被害が多く激しい事から、「シロアリ対策は、ホウ酸を使用する施工割合」が高い状況は、本土の人達は学ぶべきかも知れない。

 

 最近は、「建物内の地盤をベタ基礎」とし、基礎コンクリートと土台角材との間に、床下喚起に効果の高い「ねこ土台」の施工法が増えている。床下の通風喚起は木造建物の耐久性向上や維持管理対策は非常に重要なので、標準化されているのは良い傾向と思う。

 木造住宅建設で、最新の木材保存の技術と情報を採用するなら、十分に「100年住宅を建てる事が可能」となって来ている。「適切な設計事務所に設計管理を頼み、木材の特徴を考えて適切な施工で家を建て、住い手が適切な維持管理」で継続して取り組むなら、「長期に安心な木造住宅」は難しく無い時代が来ている。しかも地球環境保全にも大きく貢献している木材を、もっともっと使う時代にしなければならない。

 

 (西園)