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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(45)
「北海道ボールパーク構想と木材利用」
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2020年に開催される東京オリンピックのメイン会場となる国立競技場の主構造はRC造だが、内装や外観には大量の木材が使われている事は衆知の通りである。私は昔の仲間と10月末久しぶりに、秋季リーグの早慶戦を応援するために神宮球場に出かけた。少し早めに千駄ヶ谷駅に降り、隣りの工事中の国立競技場の周辺を歩いてみた。見上げると外装に取り付けられた化粧用木垂木が見えて、来秋の完成が近いと感じられる状況となっていた。
日本を代表するスポーツ施設が、木質材料で覆われて国民の前に現す姿は、想像するだけでワクワクさせられた。
そんな余韻が残っていた11月中旬の日経新聞等に、「2023年3月開業に向け、北海道ボールパーク・プロジェクトが始動」の1面カラー広告が目に飛び込んできた。完成イメージ写真を見ると、私は「もしや木造では!」と瞬間思った。自然味溢れるデザインは2020年春の着工計画で、2023年春のシーズン開幕に間に合わせるとの完成目標である。
発表された完成予想図
現在の北海道日本ハムファイターズは15年前までは、後楽園球場で超人気の巨人軍の陰で日陰者扱いの状態から抜け出したいと画策していた。そこに札幌市のドーム球場建設の計画が打ち出されたのを機に、本拠地を移転し北海道への進出を果たした。地元のファン作りに地道に努力しながら、北海道にプロ野球を定着させた功績は大変大きい。札幌市営ドーム球場で、チームの戦力を磨き実力を積み上げると共に、熱烈な道産子のフアン作りにも成果を残して来た。スター性の高かったダルビッシュ投手や二刀流の大谷翔平選手は、アメリカ大リーグに移籍し活躍しているが、次世代のスター候補の清宮幸太郎選手や、甲子園を沸かせた秋田県金足農高出の吉田輝星投手も今年は獲得して、実力と共に球団の人気も上昇して来ている。
所で日本ハムファイターズの歴史は、私の子供の頃は「東急とか東映フライヤーズ」の時代もあって、戦後の野球界を代表した「青バットの大下弘や、18才の怪童尾崎行雄投手」が大活躍した歴史を引き継いだ球団である。
近年、札幌市との賃貸使用契約であるドーム球場では、自由で効果的な営業活動が取り難いと考えて、自前の野球場を、札幌市の隣り町の北広島市に新しく造るとの計画を発表した。自前球場を建設すると言う事は、「北海道に腰を据え、長期ビジョンで取り組む」との宣言でもある。都市への集中の弊害が言われる時に、地方の活性化策へ参考とすべき話題である。
地域を巻き込んだ誘致合戦の中で決められた建設予定地は、「きたひろしま総合運動公園」の敷地内で、最寄り駅からは電車で札幌駅まで16分、新千歳空港まで20分で、両地点からは車でも約30分の広々とした便利な場所が選ばれた。
球場の主構造はRC造/S造で地上4階建てに相当するが、屋根は雪が落ち易い切妻型スライド開閉式で、設計は米国設計大手のHSK社が担当し、施工業者は大林組と決めた上で今回の発表となった。建設の目標を「従来の日本のスポーツ施設の概念を超える新しい空間造りを目指す」と夢を高く掲げて、従来の野球場建設とは違う発想で、球場周りに商業施設やホテルやレストラン等を計画的に併設する案となっている。
天然芝を採用した収容人員35,000人の大規模球場は、外装に木質材料を上手に使う事で、北海道の自然にマッチした建物群に仕上げられる。東京オリンピックのメイン会場の国立競技場も「主要構造体はRC造だが、内外装は和風に見せるために大量の木材を使った設計」となっているが、似た考え方である。
北海道ファイターズ球団は単に野球場だけを建設するのではなく、隣の札幌市で計画しているカジノを含む統合型リゾート(IR)との相乗効果も考えている様で、また旅行客へ提供される北海道の農業産品にも多大な影響が期待される。「野球場を中心にした、ボールパーク」は、今までの野球試合の入場券の売上収入だけに依存して来た、従来のビジネスモデルからの脱皮を目指している。球場周辺を含めて「野球以外でも、何時でも誰でも楽しめる施設」とする構想が見て取れる。
建設計画費用は600億円とし、「自己資金と、賛同企業の出資資金を集める計画」で、投資金額を回収するには、野球を中核とするが「食や物販を有機的に融合させる案で、多彩な営業活動を目指した関連施設」を目指している。完成イメージ図で見る周辺施設のデザイン案は木質建築物が主体となっている。野球スタジアム周辺の池の周りには、大型のボードデッキが設置され、水辺で楽しく遊ばせるために、木材を全面的に使用する計画となっている。緑に覆われた広場は、訪れる人々が存分に寛げる公園として計画され、「北海道らしさの自然味溢れる施設造り」を目指している。
プレス・リリースの「見た事のない球場を創造しよう! これまでにないスポーツ観戦の形を創造しよう!」とは、野球場以外の多彩な施設群を計画し、「野球の試合の無い日でも、人々が集まり楽しめる公園風の施設造り」案である。
「世界がまだ見ぬボールパークを!」とは、如何なる環境を造ろうとしているのだろうか。想像するだけでワクワクさせられる。そして「感動を、熱狂を、活力を、健康を、つながりを、安心を、創っていく」とのコピーには私達の期待も膨らむから、北海道ファイターズファンにはもっと期待が大きい事だろうと羨ましくなる。
「東京には無い雰囲気造り」を目指し、「楽しく遊んで、お金を落としてもらう工夫」をして、今までの国内の野球場には無かった発想による街造りである。また「スポーツが暮らしに根付いた次世代型の街を」や、「北海道のシンボルとなる空間を創造する」との目標、そして「北海道らしい大自然の中でアクティビティーを楽しみ、賑わいが期待できる商業施設造りを目指す」等とは、如何なる工夫が盛り込まれるのか。きっと北海道ファイターズのフアンが誇りを持てる様な総合施設が生れるのだろう。
野球シーズン以外のスタジアムは、35,000人の収容力の活かし方として、ライブエンタテイメントの開催も計画されている。従来の運動施設は「県や市等の公共が建設するもので、専らスポーツ競技をする場所」との一面的な目標で建設されていた。しかし2015年10月に文部科学省外局としてスポーツ庁が誕生した事から、スポーツ行政の一本化と総合政策の推進を目指すと共に、同時にスポーツ産業の振興も重要視されている。アメリカではスポーツ関連事業が大きな産業と育っているだけに、日本でもスポーツの地域経済活性化への期待が大きくなって来ている。競技場の経営も、これからは総合的な収益性を高めるために、新しい方向へと転進し始めている。
日本経済の活性化を目指すために、「スポーツの産業化を進める事で、関連分野を含めて成長産業へと転換を図る」目的で、事業の収益性を最大化する新しい仕組み作りが始まる。その様な施設には、自然環境にマッチし易い木材の良さを活かす政策が期待される。
「木材使用は旧態依然の古い考え方」ではなくて、「人間らしい生活環境を造り上げるには、持続性のある資源の代表でもある木材は重要な資源である」と、考え方を転換させる時代が来ている。(2016~2030年の「持続可能な開発目標・SDGs」が発表されている。)国立競技場や今回発表の「北海道ボールパーク」等の、先進的な建設事例に反映されて来ている。だから木材の生産地である地方も遅れてはならないのである。
発想の転換が始まっている時期だから、鹿児島市のサッカー場建設と元鹿児島県工業試験場跡地の中央駅西口アリーナ計画では、「鹿児島の景観を活かし、地方経済を長期的に活性化させる施設計画」にしてもらわないと、単なる運動施設のRC造の建物を建てる発想だけでは、数年のうちに時代遅れの産物になると危惧する。
都市間競争は年々厳しくなるのだから、他県の競合施設に負けないだけの発想による施設を造って貰わなければならない。「鹿児島らしさとは何か。都会や他県の人々が、『鹿児島らしい』と評価してくれるポイントは何なのか」を、丁寧に考えて両施設の建設計画に取り組んで貰いたい。
私が期待する屋外運動場のサッカー場での「鹿児島らしい景観ポイント」は、「煙を吐く雄大な桜島と、美しい錦江湾と、光り輝く青空」を背景に活かした施設を造る事」だと思う。メインスタンドから桜島を望められる錦江湾沿いに立地するなら、間違いなく「日本一、世界でも代表的なサッカー場」に出来るだろう。そして競技場だけの単独施設ではなく、その周辺に鹿児島らしいローカル色の溢れた食の広場や関連付属施設を設けるなら、多くの人々が鹿児島を目指して集まって来てくれると期待できる。
「中央駅西口アリーナ計画」への私見も述べておきたい。現施設の更新目的なら、今話題となっている計画規模でも良いのかもしれない。報道によると、周辺の交通渋滞や駐車場問題に議論が偏っている様だが、その前に現在の県立体育館の代替施設としての考え方で良いのかである。今後、スポーツの産業化が一段と進むとなると、地方都市の集客施設の中核とする考え方で取り組む必要がある。立地予定場所が場所だけに「地元利用者の満足レベルではなく、全国大会や世界大会を誘致できる施設」を造っておかないと、これから50年間使える施設にはならない。
施設の検討での最重要課題は、「全国大会級の開催が可能な施設であるかどうか」である。バレーボールであれバスケットボールであれ、最低条件は「横に並列に4面のコート」が採れるかどうかであるが、漏れ聞くに「現検討案は、敷地の狭さから『田の字型の4面コートの配置案』で計画されている」そうだ。素人の私でも「田の字型のコート配置」の例は、他の大規模施設では聞かない。そんな前例の無い配置案では、真剣勝負である全国大会等の会場には、選択は期待出来ないだろう。現状の議論で新しい大規模計画が進められるとしたら、鹿児島中央駅西口の計画敷地は、土地代が高価過ぎて勿体ない。
県の計画関係者から県民への公表が遅れているのは、問題が有るからではないかと邪推したくなる。地元の大会やママさん大会しか開催出来ないレベルの体育館なら、もっと土地価格が安くて駐車場が十分に広く取れる、鹿児島市外の市町村に建てる方が、県内の均衡ある発展のためには、ずっと理に適っていると言える。新幹線終着駅である鹿児島中央駅前の土地は、もっと大規模な集客力が期待され、鹿児島の活気を取り戻す様な活用方法を考えるべきである。体育館を建てる最低条件は「横にコート4面を並列的に配置できるだけの広さ」のある場所を、選定し直してから取り掛かって欲しい。造ってから、体育館としては全国的大会級の誘致が出来なくなったと言って、何時の間にかエンターテイントやイベント開催を中心とした用途へ転用するとしたら、既に博多港に大規模施設計画が発表されているから、それと比べて中途半端な施設では、県民の大金を投じて貰っては困る。建設案の計画詳細を早く公表して、県民の議論を進めて貰いたいものだ。
運動施設はどうあるべきかを考えさせるのが、「北海道ボールパーク構想と木材利用」の広告だったと思う。鹿児島県は森林環境税を全国では早くから実施した県だけに、「公共施設の木材活用でも、今回の運動施設案でも、国立競技場や北海道ファイターズ計画に見劣りしない木材利用計画の議論」を期待する
(西園)