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★【特集】バイオマスについて(6) 代表取締役 佐々木幸久
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ブルゲンラント州ギュッシング
バイオマスで有名な、ブルゲンラント州ギュッシングを訪ねました。
オーストリア最東部で、ハンガリーと国境を接する位置にあります。第二次大戦後オーストリアに帰属が決まったとのこと、陸続きのヨーロッパであれば、このようなこともあるのでしょう。自由主義圏の西ヨーロッパの東端にあり、かつて共産圏の東欧とは鉄のカーテンと呼ばれて、往来の厳しい制限がありました。
オーストリアで最も貧しい地域
ブルゲンランド州は貧しい地域でありましたが、それでも冷戦時代は自由圏の食糧基地として畜産などが産業として成立していたようです。
冷戦が終わり往来が自由になると、東欧から安い農畜産品が流入するように成り、畜産は殆ど崩壊、今や「牛一頭いない」と言われる状況になりました。山、畑の所有規模も小さく、森林は0.75haとのことで、これは何と鹿児島県と似たような数字です。
そしてオーストリアの中で、高速道路、鉄道がない唯一の州であるとのこと。「オーストリアで最も貧しい地域」と認定されるに至ったそうです。70%の住民が平日ウィーンで働き、週末のみ帰るという生活。まさに絵に描いたような逆境と言っても良いでしょう。
ギュッシングモデル
今回の視察について、「バイオマスを見に、オーストリアに行った(行く)」と言ったら、「ギュッシングには行った(行くの)?」と何人からか聞かれました。
今は世界中から、私たちもはるばる日本からこうして教えを請いに訪れるような先進の地に、どうやって大きく変身出来たのか。
炯眼にして意欲にあふれた郷土愛の持ち主である指導者たちが現れた、一言で言うとそれに尽きるのでしょうか。彼らは域外へ流出しているエネルギーコストに目をつけました。化石燃料に頼ることをやめて、地域内で調達出来る自然エネルギーでまかなおう、流出する地域の富を地域内にとどめようと決断し、成功のためのモデルを作ったのです。
最初はもの笑いの対象であり、様々な反対や抵抗を受けながら、辛抱強く推進し続けて20年、見事に成功して現在このギュッシングモデルと呼ばれる世界的に有名なシステムを作り上げたのです。
今ではブルゲンランド州内の電気は全てが代替エネルギーに、熱エネルギーはギュッシング郡内に限れば、自給率100%を越えた、文字通り「エネルギー自立地域」になったとのことです。
さらに各地の研究機関の協力、施設の誘致、車メーカーからの研究費の提供なども得られました。またEU、国、州の多額の補助金を受けて、ギュッシング郡内18市町村に1億ユーロを投じて「エコエネルギーランド」の建設、エコツーリズムの推進なども並行して行い、今では30万人の宿泊者があるなど、極めて効果的な「町おこし」に成功したと考えられます。
ケース1
牧草からガスを生産、ガスと電気を供給、同郡内シュトレン町人口1000人。
かつて畜産で成り立っていたが、ハンガリーからの流入で畜産業は壊滅した。
今は一頭の牛もいないという。しかし広大な牧草地は残っているので、これを利用したガスの採取、それを利用した発電を行っている。
かつての牧草地から生産される12000トンの牧草を用いてメタン発酵
ガスとそれを利用した発電
ケース2
木材のガス化 熱、ガス、電気を供給
ケース3
ウルベスドルフ 人口150人
森林組合をつくり、100万ユーロの資金を作る。チップボイラーと太陽熱温水器とを設置。45軒に配管し、温水供給する。
太陽熱が有利とのことで、夏場は成るべく太陽熱のみで済まているとのことでした。冬はチップを焚きますが、熱の配給は保温性能の高い配管を行う必要が有り、初期投資がかさみます。配給出来る距離に限界があります。熱供給が実現するには、成るべく人家が近くにあることが必要です。それでも5kmくらいまでは配管していると言うことでした。そのくらい石油よりも安価に付く、と言うことです。
もし熱エネルギーに余裕があって、資金があれば、さらに発電をしてこちらはもう少し遠くまででも配給出来ます。それでもあくまで熱優先で、発電効率を高めるために復水器を使うことをせず、木材などの資源からエネルギーを残らず使い尽くすところに、真骨頂があります。
このような合理的なシステムを採用する結果、住民から出資を求めて設備を整えても、数年内に配当が可能になるとのことで、地方のリーダーが賢いなと感じました。
次回は熱供給の配管システムを紹介します。
(代表取締役 佐々木幸久)