メールマガジン第80号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第36話)

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36.続・新しい丸ビルの構造

 さて、新しい丸ビルは免震構造でという私の当初の目論見は、多くの同僚・友人達の不支持もあって、残念ながら頓挫した。しかし考えてみれば、免震構造というのは20世紀後半に生まれた新しい技術ではあるが、一般の方々から見ればそれほど目新しいものではない。それを21世紀最初のビルで使おうというのは、あまり魅力的な解とは思われなかったのかもしれなかった。
 何かもっと新しい時代の到来を予感させるような面白い解が考えられないものかというのが当時の私の心境であった。

 

 そんな中で思いついたのは以下のような考えである。例えば、機械設備技術者や電気設備技術者は、ビルの中に空調機械室や電気機械室といった設備専用の部屋を持っている。しかし構造の場合は制震要素や耐震要素と言うように、部屋ではなく単に要素でしかない。私は構造も要素ではなく部屋を持った方が良いのではないかというようなことを考えたのである。つまり構造機械室構想とも呼ぶべきものを提案することにしたのである。


 勿論、構造機械室というのは何の脈絡も無く思いついたというわけではなかった。一般に従来型の耐震要素は建物の層に配置される場合が殆どであるが、地震時に層の剛性・強度が弱いとその層に損傷が集中してしまうという性質がある。つまり大地震時に特定の層の耐震要素が一旦大きな損傷を受けると、結果としてその層は剛性・強度が落ちることになるから、いよいよその特定層に損傷が集中してしまうということになる。そのような損傷集中が生じない耐震システム、言わば「損傷分散型の耐震システム」を開発しようというのが私のこの提案の本音であった。


 要素を部屋にという提案にはもう一つの理由があった。私は阪神淡路大震災以降、多くの建物の耐震診断を担当したが、そこで明らかになったこととして、かなりの建物で建物の改修等に伴って耐震壁等の耐震要素の移設あるいは撤去が行われているという事実であった。撤去は論外であるが、耐震要素の移設も、建築構造が本来システムとして成り立っていることを考えれば、かなり問題のある行為である。要素を部屋にすることで、そのような行為を多少とも減らせるのではないかというのが私の考えであった。

 そのような経緯から、プロジェクト会議で「損傷分散型の耐震要素を設置した構造機械室構想」をぶち上げてみたのであるが、同僚達の反応としては、「何を言っているのかよく分からん」というものが殆どであり、なかなか即採用という分けにはいかなかった。


 それで、この新しい構想の説明の仕方を少し変えてみることにした。損傷分散型というのは確かに一般の方々には分かりにくいので、「五重塔の心の御柱のような構造システム」を開発したいという説明に変えてみたのである。

 建築の世界では一般によく知られたことだと思うが、我が国の塔建築は大地震時の倒壊例が極めて少ない。その理由は、塔建築の中心には「心の御柱」と呼ばれる剛強な中心柱が貫いており、その柱が各層に生じる損傷を上下に分散させて、極めて効率の良い耐震システムを構成しているからである。この原理を応用すれば、極めて効果的な耐震システムを構築することができるというのが、私の考えた新しい説明法であった。その時説明に用いた新しい構造システムとは下図のようなものであった。

 

 この説明は、予想を超えて多くの同僚達からの支持を集めた。デザイナーや法務担当からは機械室とすると各階の面積を算入しろという役所の指導があるかもしれないので、シャフトとした方が良いとの貴重なアドバイスもあった。ここに「五重塔の心の御柱を模した耐震シャフト構想」が新しい丸ビルの構造システムとして採用されることになったのである。

(稲田 達夫)