メールマガジン第86号>稲田顧問

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★【稲田顧問】タツオが行く!(第42話)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「これまでのタツオが行く!」(リンク

42.近況、今年度の活動報告等(続き)

 前号では、それまで続けてきた昔の建物の思い出話等は取り敢えず休止として、今年度の活動、それから来年度の計画に纏わる話について書くことにしたのであるが、今号も引き続き主として来年度の計画に纏わる話について、直近の状況を書いておこうと思う。

 

 先週末から今週始めにかけて、東京都市大学の西村先生と免震支承を作ってくださる「モルテン」という会社の方々が鹿児島に来られて、来年度の計画について意見交換を行う機会があった。特に、西村先生は少し早めに来鹿されていたのであるが、先週の日曜は生憎の雨であったことから、本来の予定である大隅半島の絶景をご案内するのは次回に廻すことにして、私の鹿屋の自宅に二人で籠り、鹿屋名産の黒毛和牛のすき焼きなどをつつきながら、来年度計画についての綿密な意見交換を行ったのである。

 

 来年度の事業計画のテーマは、「木造戸建住宅・低層非住宅木造建築を対象としたCLTによる免震構造用土台の開発」である。意見交換を行う中で、西村先生とどうしても意見が合わなかったのは、戸建て免震住宅の市場規模の問題である。

 私は、新築住宅の建設費の1割アップ程度で免震化が可能となれば、5%程度の建物オーナーは免震化に踏み切るのではないか、そうなれば25万m3のCLTの新規需要が生まれるというのが、私の提案の骨子である。

 それに対し、西村先生は、いくら何でも5%は多すぎるのではないか、世の中はそんなに甘いものではない。免震化に踏み切るのは、せいぜい1%程度が良い所で、それでも5万m3のCLTの新規需要が見込めるのであるからそれで十分ではないかとおっしゃったのである。

 それに対し私は、本当は建設コストの1割アップ程度で戸建て住宅の免震化ができるのであれば、新築戸建て住宅は、2030年には免震構造義務化(つまり新築戸建て住宅は100%免震構造とする)を提唱しても良いのではないかと思っていると反論したのである。

 例えば世界の自動車業界は2030年には全ての新車販売を電気自動車に限定することを打ち出している時代である。ある程度の時間的猶予を持たせれば、多くの住宅メーカーはそれに先駆けて免震化の技術開発を競うと思ったのである。

 

 それにより、我が国の都市の地震災害に対する安全性が担保されるのであれば、免震構造義務化の意義は大変大きいのではないかと主張したのである。しかし実は正直に言えば、都市の耐震安全性の担保はそんなに容易なことではないことは重々承知している。

 なぜならば、都市には新築着工床面積の約50倍の既存建物が存在する。その50倍の建物については、これだけ耐震化が叫ばれているにも関わらず、免震化はおろか最低基準である基準法の耐震規定すら満足していない建物が多く残存しているという実態がある。

 この問題を解決する一つの切り口として、工業倶楽部で述べた「免震レトロフィット」がある。新築建物を免震化したとしても多くの既存建物は従来の構造のまま取り残されることになるが、ローコストで対応可能な免震レトロフィット技術が開発されれば、我が国の都市の耐震安全性は大幅に改善されることになる。

 

 前回横河民輔氏が優れた地震対応の技術は「消震構造」と書いておられることを書いた所、それは大変良いネーミングだと思うというご意見を多く頂いた。この際ここは「消震構造革命」と銘打って、

 ①新築戸建て住宅については2030年までに免震構造義務化

 ②既存建物への対策として、戸建て住宅向けのローコストの「免震レトロフィット」技術の開発

を提言しようと思うのだが、なんとしても多くの方々のご賛同がいただけないものかと切に思う次第である。

(稲田 達夫)