メールマガジン第92号>部室長挨拶

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★部室長からのメッセージ

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森林・林業分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)が大きく進み始めています。

では木材加工分野は?

 

 このメルマガは半年に一度くらいのペースで、部室長の当番が回ってきます。私は過去のメルマガを見てみると、ここ数回は2020年4月、2021年1月、そして今回の2021年11月と担当していますが、毎回冒頭に新型コロナのことに触れてきました。今回はというと、皆さまご承知の通り、新型コロナ急拡大の緊急事態宣言が発令された第5波を乗り越え、一時の収束状態なのか、はたまたコロナは完全に終息したみたいなネット記事もあったり、相変わらず先が見えない時代であることに変わりありません。

 

 ちなみに、このような「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」の時代のことを「VUCA(ブーカ)時代」(VUCAはV(Volatility:変動性)、U(Uncertainty:不確実性)、C(Complexity:複雑性)、A(Ambiguity:曖昧性))と呼ぶそうです。今はまさにこのVUCA時代、と改めて感じる所です。

 

 これまでの時代は、戦後復興や高度経済成長、その後の安定成長期、バブル崩壊以降の失われた30年、、と、人口増加とその終着地に至る時代背景の中で「ある程度先を予見できる時代の中で、大きく仕事のスタイル(会社勤めをする、会社が成長すれば自身も、地域も成長し、経済的にも潤う)を変えなくても生き延びていくことができた時代」だったのではないでしょうか。今回のコロナは、そこからの切り替えを強制的に問うようなもので、日々の生活のスタイルも、働き方や仕事の中でのコミュニケーションの在り方、価値観に大きな変化を生み出した契機だったように思います。たとえば、子供たちの小学校の様子を聞けば、今は児童一人ひとりにタブレットが準備されて、授業の中でも活用されているそうですし、親のPTAイベントもオンライン開催がなされています。今までだとなかなか日中仕事を休んでまでPTAに参加する、あるいは、体調不良があって物理的に学校行事に行けない場面があったかもしれませんが、ZOOMなどのオンラインツールを活用して、イベント情報や内容の筋については得ることができる手段、選択肢が増えた、ということができると思います。もちろん、リアルな対面でのコミュニケーションができないことによるマイナス面もあるでしょうが、コロナの対応をせざるを得ないのですから、その状況の中でも本来の目的を果たせるように、あの手この手で今後も対応していくのでしょう。

 

 新しいスタイルが始まると、必ずといって良いほど、様々な抵抗があるのが常です。しかし、ラジオ→テレビ→インターネット、電話→携帯電話→スマホと、なんだかんだ言って手を変え品を変え、時に過剰な使い方やスキを突いてくるトラップにひっかりつつもそれを是正しながら、世の中に浸透してきているものです。つまり、今後もデジタルツールを使いこなしながら、選択肢を増やしながら、その時々の状況変化に応じて柔軟に、迅速に適応しながら対処していく、この流れは今後も変わらないのではないかと思わされたのが私にとっての今回のコロナの一件です。他にも、人間(というか、日本人の閉そく性)の本性だったり、様々なイヤな側面を感じる契機にもなりましたが、今日の本題とは異なりますので、ここでは触れません。

 

 さて、前置きが長くなりましたが、このようなデジタル化の流れ、DX時代の到来は森林・林業・木材産業分野においても不可避です。先日、とあるセミナーの場で鹿児島大学農学部教授の寺岡先生とご一緒する機会がありました。寺岡先生は、日本林業におけるスマート林業化、林業DXの最先端を研究されておられる先生ですが、セミナーの冒頭に丸太計測に関する新ツールをご紹介くださいました。Log-co(ログコ、https://log-co.ai/)という、丸太認識AIが自動判別して、現場での丸太本数をカウントしてくれるツールです。

 


 デジカメで撮影した丸太画像情報から、丸太本数や材径を自動判別し、検収情報をデジタル化できる、ということなのですが、もしかしたら、ここまでをお読みになった方の中には、「画像認識、機械学習による自動判別、スマートフォン撮影画像で連携できるのは大したことじゃない」と思われる方もおありかもしれません。しかし、寺岡先生がおっしゃっていたお話の中で、次の言葉が非常に印象的でした。

 

 「DX(デジタルトランスフォーメーション)というのは、デジタル化することではなく、デジタル化を通じて新たな価値を生み出していくことである。丸太情報を瞬時に認識できて仕事にかける時間が減ること自体もコスト削減として重要である。しかし、その先にあるのは、この丸太がどこからきて、どこに使われるようになるのか、その追跡が可能になることである。」とのこと。

 

 つまり、この追跡ができることによって、森林資源、伐採活動、丸太情報、流通情報、木材利用情報といった情報がつながっていくことで、森林の活用の仕方、それ以降の活動において価値の生み出し方が変わっていく可能性があることが、この森林・林業DXの真髄なのだろうなと感じた次第です。

 

 森林分野は、脱炭素社会の実現、SDGs、ESG投資、と明らかに注目度が高まっていて、先日は日経新聞一面にも森林・林業の紹介がありました。内容的にはもう少し調べた方が良いのではないかと感じることが多々ありましたが、それはともかく、世間の森林・林業への注目度が高まっていることは間違いなく、日々、様々な方面から興味関心をお持ちになっているお話が聞こえてきます。特に最近はエネルギー方面で話題が多いですが、今後は炭素吸収源の環境面の位置づけからの取り組みも活性化していくことを肌で感じています。森林・林業分野で進んでいるDX化(林野庁HP参照:https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/smartforest/smart_forestry.html)を見ても、それらにつながる技術が多々あり、林業現場の情報連携だけでなく、森林資源情報と、例えば炭素固定量という切り口で金融分野などともつながっていくのではないかと考えています。

 

 さて、ここまで森林・林業分野の話を中心にお話してきましたが、翻って考えてみると、木材産業側はどの程度DXの進化にキャッチアップできているのでしょうか。先ほどの丸太情報との連携は間違いなく木材加工工場としては重要な情報になるはずですし、海外であれば工場引き取りで山側に材を取りに行く林道端取引がありますが、それも在庫情報をストックするデジタル情報があってこそです。そのような山側との情報連携を取ることによって、木材加工サイドも仕事の在り方(例えば木材の調達方法や調達コストの在り方)を見直していくことが求められるかもしれません。また、出口側の製材品需要、あるいは、当社が得意とする非住宅分野の木造建築物分野においても、例えば様々な県の産地指定の木材・製材品情報を得ながら、対応しているところですが、今の所はアナログな状態で人と人のつながり、直接目で見て、話をして、という所がベースになっているように思います。一方で、当社の出口側の窓口である設計・施工に関してはBIM(Building Information Modeling)の導入に取り組んでおり、情報連携の流れがやはり迫ってきているように思います。木材調達→木材加工→プレカット加工→現地施工と製品の流れを見たときには、木材調達以降がまだアナログな状態にあるのは否めません。山側、出口側の流れに置いて行かれないように、本来の目的をきちんと見据えながら新技術導入にも挑戦していくことが必要です。

 

 VUCA時代とは言え、今後、少子高齢化によって働き手不足になることは目に見えていますから、生産性向上、付加価値向上を進めなければならない、ということは、少なくとも間違いなく予見できる未来のように思います。引き続き、山側、出口側、両面の関係者の皆さまとお話をさせて頂きながら、挑戦を続けて参りたいと思います。

(総務経理部長 新永 智士