メールマガジン第93号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第49話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

49CLTパネル工法

 最近、平屋の住宅(CLTパネル工法)の構造設計に取り組んでいる。本来は、所謂4号建築と呼ばれる規模の建物であるから、壁量のチェック以外構造計算は不要のはずなのだが、CLTパネル工法は4号建築の規模でも構造計算は必要である。

 

 2016年にCLTパネル工法の関連告示が施行されたので、それに従えば構造計算は可能であるが、ルート1~3まで準備された設計ルートにより自由度は異なるのが現実である。従って、建物の設計自由度確保のためには設計ルート3で設計したいということになる。設計ルート3は、新耐震設計法施行時より導入された日本本来の優れた構造設計法であるが、許容応力度設計以外に保有耐力計算が必要となる。建物が壊れる所まで追っかけて確認するのであるから、安全性の観点からも優れた設計法であることは間違い無い。

 しかし、保有耐力計算を行う建物については適合性判定が義務付けられておりやや法手続きが煩雑となる。本来構造計算が免除されている4号建物に、適判が必要ということになるのだから、現実的な設計の現場では、やや敷居の高い設計法ということで敬遠されがちになるのもやむを得ないように思う。

 

 パネル工法の建物の保有耐力を求めるためには、技術的課題も多い。壁パネルは剛強な構造性能を持つことからそれ自体が破壊することは殆どあり得ない。壁パネル相互の接合部あるいは接合具が破壊するのが通例である。その接合部を十分な靭性が発揮可能なようにうまく配置し、しかも保有耐力計算に対応しやすい構造システムとして成り立たせることが重要となる。

 例えば鋼構造の超高層建物等については当然、保有耐力計算は必須であるが、これらの建物に対しては上で述べたような構造システムは確立しており、永年の経験もある。つい最近始まったばかりのCLTパネル工法については、4号建物の規模と言えども課題は多いのである。

 

 幸い、私は平成25年以来、林野庁等の助成を受けながら中大規模建物向けのCLT床システムの開発に取り組んできた。また一昨年の木構造振興株式会社の助成事業では、中大規模建物向けのCLT制震壁システムの開発に取り組んで来た。中大規模木造を想定したシステムとは言っているものの、通常の小規模な低層建物にも適用は可能である。たまたま昔から懇意にしている知り合いの方がCLTパネル工法の住宅に興味を持たれているのを知って、今回平屋の建物の構造設計をCLTパネル工法のルート3で行うことを提案してみたのである。

 上で述べたような事情から、建物のモデル化、性能評価の方法、解析法、断面検定の方法等、構造設計に必要な全ての手順を新たに考案する必要がある。なかなか面倒な仕事ということにはなるが、構造設計における「面倒」というのは、私は「面白い」という言葉と同義語だと思っている。というわけでかれこれ1ヶ月以上、この面倒な設計に取り組んできたのであるが、ここに来て、なんとか見通しが立ってきたのではないかと思っている。

 

 そうこうしている内に、この話を聞きつけた山佐木材の仲間が、新たに2階建ての建物を探して来てくれた。このような取り組みを重ねながら、徐々に規模を拡大して行けば当初の中大規模建物向けのシステムに発展・成長してゆく可能性は大いにあるのではないかと思っている。

 いずれにせよ、CLTを用いた建物の設計は未だ端緒についたばかりだと思う。ここしばらくは、このような地道な仕事に取り組んでゆくことになるが、そういう意味からも今年は結構良い年になるのではないかと思う次第である。

(稲田 達夫)