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★【稲田顧問】タツオが行く!(第53話)
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「これまでのタツオが行く!」(リンク)
53.木造超高層ビルは実現可能か
鋼構造出版の湯田編集長から電話を頂いて、「今年も『鉄構技術』で鋼木ハイブリッド特集をやるので、良ければ何か書きませんか。」と言われたので、有難く寄稿させてもらうことにした。題して「木造超高層ビルは実現可能か」である。
SDGsの時代、今更超高層ビルでもあるまいと思われる方も多いと思うが、国産木材資源の積極活用を考えた時、木造建築と言えば、従来は低層小規模の住宅が殆どであったが、最近では中低層の非住宅建築にも木質材料を使う例が増えている。従って「木造超高層ビル」もその延長線上で、そろそろ現実的なテーマになりつつあるのではないかと思い、書いてみることにしたのである。
実際には、その人流の考え方で木造超高層ビルの実現に挑戦している技術者は多いのではないかと思う。解はそれぞれだと思うので、まさか「実現不可能」ということはあり得ないと思うが、私ならどうするかという視点で書いてみることにした。
検討には、多少のツール(解析プログラム等)が必要であるが、幸い今となっては大昔現役時代に自作したプログラムが未だ使える状態で残っていたので、応力解析、増分法解析、振動解析くらいはなんとかなる。早速エクセルを使ってデータの管理を行いながら検討を始めることにした。
作戦は以下のようなものである。木質材料は塑性化した後の挙動が複雑である。従って損傷は極力接合金物で生じさせることにし、木質部材には塑性化は生じさせないことにした。そのために考えたディテールは、角形鋼管をスライスしたものとLSB(ラグスクリューボルト)に雌ネジ加工を施したもの、それに普通ボルトという至ってシンプルなものである。
実は2年前に助成事業を受託した際採取した実験データが相当数あったので、それをベースに検討を進め、壁体の性能評価の方法、構造計算の方法、断面検定の方法、保有水平耐力の評価法等は一通り準備ができている。それらの言わばタツオ流の考え方でどこまでできるかというのが、今回寄稿したレポートの骨子である。その結果気が付いたことを書くと以下の通りとなる。
まず、木造超高層を実現させるために重要なことは、木造の軽量であるという特徴をいかに有効に利用するかということである。例えば長期柱軸力について考えてみても、かつて鉄筋コンクリート造では超高層ビルは不可能と言われた時代があったが、その大きな理由としては、柱に常にかかる荷重を鉄筋コンクリートで支えようとすると、2m角のような大きな柱になってしまい建物として使い物にならないということであった。
しかしその後、高強度コンクリートが開発されて、今ではRC超高層は問題無くできるようになった。木材の強度はかつてのRC部材と同程度であることを考えると、自然素材である木材の高強度化は困難であり、この柱軸力の問題がネックになるのではないかと心配した。しかし、実際に検討してみると、基準階の床を全て木質パネルにすることにより、建物は大幅に軽量化され、木質材料でも問題無く常識的な断面寸法で柱軸力を支えることができる。木造の軽量化の特徴が効を奏したというわけである。
その他、通常だとRC床スラブの場合3m程度のピッチで小梁を設ける必要があるが、木質パネルであれば、工夫をすれば、6mスパン程度は小梁なしで無理なく支えることができる。小梁が無い分さらに軽量化されることにもなる。
耐震性についても同様のことが言える。構造フレームを純木造とした場合、柱軸力の場合と同様に基準階を全て木質パネルとすれば、建物に作用する水平力は小さくなり、かなり余裕をもって耐震性のある建物を設計することが可能である。
但し、逆に基準階の各階床をRC造とすると、建物重量が大幅に増加し、純木造では設計は困難となる。勿論そのような場合でも、重量の増加により応力の厳しくなった部位について鉄骨を使ってうまく補強すれば、超高層ビルも成り立たせることは可能であるが、それでは木造超高層とは言い難いかもしれない。
つまり、今回私が出した結論としては、純木造フレームでも工夫をすれば超高層ビルを設計することは可能であるが、建物の特殊事情によって応力的に厳しい部分が生じる場合には、鉄骨を用いてうまく補強を施せば、比較的合理的に構造設計が可能となるというものである。
そう言ってしまえば当たり前ではないかと言われるかもしれないが、鉄構技術にはかなり具体的なデータを交えて、私なりにまじめに検討結果を掲載しているので、この結論に疑問を持たれた方、あるいは多少とも興味を持たれた方がおられたら、是非鉄構技術の7月号を読んで頂ければと思う次第である。
(稲田 達夫)