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★【稲田顧問】タツオが行く!(第86話)
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「これまでのタツオが行く!」(リンク)
86.万博リングを残す方法(続編)
第82話で話をした友人の山下君から、その後も幾度か電話があった。「万博のリングは大変優れた建築と思う。ただ仮設建築物として設計されているから、構造耐力的にも保存は難しいとテレビで専門家と称する人が話していたが本当だろうか」と言うのである。僕は「何万人もの来場者が利用することが想定される施設であるから、いくら短期間の利用と言えども、そんないい加減な設計はしていないだろう」と応える。実はこの応えについては何も根拠も無いのだが、僕も万博リングは一周全部残した方が良いと思っている方なので、希望的観測が含まれての意見になってしまう。
そんな話をしながら、昔の仕事で体験したことを思い出してしまった。東京駅前の旧丸ビルの解体調査を行った時のことである。旧丸ビルの基礎構造には約5000本の松杭が使われていたとの記録がある。松杭の長さは約15mとのことで、全て米国産であった。呉服橋で陸揚げされ建設現場まで荷車で運ばれたのであるが、当時は丸の内には未だ殆どビルの無い時代であったから、地上を運搬すること自体は何の問題も無かったと思われる。地下一階から基礎を介して15mということであるから、杭底は東京礫層に到達していたと思われる。多分地盤調査が行われていたということであろうし、その杭をスチームハンマーで工期僅か3か月程度で全て打ち終わったとあるから、当時の建設技術が極めて高度であったことが推察される。
さて、その杭の調査をしようということになったのであるが、専門家の方達に相談すると様々な興味深い話を聞くことができた。松杭は水の中に埋まっていれば腐食の進行は少ないが、水が無いと腐食が進んでいるのではないか、という意見が多かった。東京丸の内の地下水位はある時期井戸水を汲み上げた結果、地下30m付近まで下がっていたという記録がある。そうだとすれば、松杭の劣化はかなり進んでいることになる。一方、丸の内の水位は東京都が井戸水の汲み上げを禁止した結果、かなり元の高さに戻って来ているという情報もある。いずれにせよ杭の劣化度の調査は是非やるべきだということになった。
木材の腐食・劣化については他にもいろいろ興味深い話を聞くことができた。仮に地下水位が下がったとしても、松杭は地中深くに埋もれているわけだから、酸素からは閉ざされており、腐朽菌は活性化せず松杭は健全な状態を保っているのではないかと言うのである。逆に松杭を掘り起こして、腐朽菌が急激に酸素にさらされると、腐朽菌が一機に活性化し急激に腐食が進むことがあるというのである。大変面白い説であるので、抜いた松杭の一本はそのまま放置して腐食の進行の度合いを観察することにした。どうなるか興味深く見守ったが、急激に腐食が進むようなことは結局無かったと記憶している。
旧丸ビルの基礎構造については、その他にも興味深いことが多々あったので、学識専門家の方々に声をかけて、解体現場の見学会を開催することにした。見学会の後、ある大御所の先生からメールを頂いたのであるが、それには「大変興味深い見学会であったが、一つ気になったことがある。今回の調査では松杭を100本程度引き抜いて調査に活用したとのことだが、残りの4900本はどうするのだろうか。願わくば、燃やしてしまうというようなことは無いようにご配慮頂きたい。」というのである。確かにその通りかもしれないということで、木場の材木屋さんに木材として引き取ってもらえないか相談したのであるが、やはり70年経過した木材を新しい建材としてそのまま使うのは難しいというのである。結局製紙会社に相談したところ、適当な長さに折って、洗浄して運んでくれればチップにして紙にすることはできるというのである。ちなみに松はクラフト紙の原料になるとのこと。結局残りの松杭の殆どはクラフト紙の原料に生まれ変わったという訳であるが、実はそこまで行くのに大変だったことをよく覚えている。
さて、万博に話を戻すが、あのように多くの市民に親しまれたリングを解体して燃焼廃棄するというのは、市民感情として到底許されるものではないだろう。一部の木材は能登半島の復興のための建材として活用することが決まっているとのことだが、その量としてはリング全体から見れば微々たるもののはずである。つまり、リングを解体すること自体は何とかなるとしても、あの大量の木材の再利用・活用を考えると、結構大変なことになるのではないかと危惧するのである。
それで、僕の提案ということになるが、取り敢えずは万博リングは山下君が言うように現状のままで保存することにし、歳月が経っていろいろ不具合が起こって来たら、それなりに対策を考えるというのが、結構現実的な案ではないかと思うのだがどうだろう。もし山下君から電話があったら、それを提案してみようかと思っている。
(稲田 達夫)
